人魚姫|未来END

□触れた熱は
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『もう、ここには来ないで』

そう言われた砂浜を見渡す


あの時、お前の手を掴んでいたら…


「フェイッ…――」


お前を

失わずに済んだのだろうかー…?


掌で小さく煌めく数粒の真珠

彼女達が流した涙

「フェイ」

人魚の姿で歌っていたお前に恋して

人間の姿で微笑んでいたお前を愛した

だが、

「好きだ、フェイ」

人魚でも人間でも構わない

関係ないんだ


俺は"フェイ"が好きなんだから


たったそれだけの答えを出すのに掛かった時間

お前を失ってから知った事

「フェイ…お前は、どこにいるんだ」

俺は…―――

「触れたい」と思う気持ちが

「伝えたい」と心を騒がせる

「会いたい」と身体が動き出す

「フェイ、お前に」

―――…傍にいて欲しいんだ

時折、真珠が光を放つ

まるで俺の言葉に答えるように、否、応えるように…?

「…フェイ」

また、光を放つ

それは余りにも弱く淡い光

簡単にかき消されてしまいそうな

だが、微かに暖かさを含む


…――彼女のように

「フェイ………?」

小さくではあるが

それでも、真珠は

俺の言葉に答えるように輝きを放つ

「…そこに……居るのか…?」

真珠の輝きが僅かに揺らぐ

「フェイ。聴こえているのか?そこに、居るんだな…?」

一瞬、強く輝いた真珠は

いつも近くに感じていた熱を宿した


彼女と、同じ…

「お前に伝えたかった事があるんだ」


僅かな希望もなく、ただ願うしかなかった

それでも"傍にいて欲しい"と

幾度となく願った


そんな事がある筈がない、そう思いながらも
そうであって欲しい、と

その思いが今、確信に変わる

「フェイ」

聴いて欲しいんだ、何度でも

人魚でも、人間でも構わないから

傍で笑っていてくれないか

ただ隣に居て欲しいんだ

触れることが出来る場所に


フェイ…俺は、お前を

「愛してる」

あの時とは違う

他の誰でもない"お前"に告げる言葉

少しづつ光を強める真珠は、先程までとは違う輝きを見せる

「…?」

強まり続ける光が辺りを包み、あまりの眩しさに目を閉じる





長くも短くも感じる時間

小さな音と共に薄れ行く光に目を開く

消えた光

「(…今の光は、一体…?)」

掌に残るのは砕け散った真珠の欠片

風に舞い、空へと流れ



光を反射し小さく煌めく





20090710

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