人魚姫|未来END

□応える想い
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手に伝わる砂の感触も

肌を撫でる風も潮の匂いも

全て本物

でも、どうして…?

"あの日"と同じ姿でいる自分

一体、なにが起きて…?

海を見つめるあの日と違う姿の王子に

時間が経っている事だけは理解出来た


「…!」

キラキラと、太陽の光りを反射して小さく煌めく潮風が

王子の周りから空へ舞い上がっていく


「?…なに、……っ!」

思わず上げた声

聴こえた

紛れもない"自分"の声が

「…声も、戻ってる…」

喉に手を添えて、確かめた

さらり、と頬を撫でる潮風を

視線で辿った先に見える

海から離れる王子の姿


「…王、子……?」


声が出せるのに、何も伝えないの?

近くに居るのに、触れられないの?

「…って…」

何も伝えられずに

触れる事も出来ずに

「待って…!」

ただ見ているだけ…?

また…彼と


離れてしまうの…?


そう、思うと同時に駆け出す身体

振り向かない背中に手を伸ばす


「待って!!」

上げられた私の声に

立ち止まり振り向む王子


「フェイ…?」


小さく問うような声の王子に

答えるよりも早く、ぶつかるように抱きついた

「王子…!」

彼の背に回す腕も

彼に伝えるための声も

「待って、下さい…!」

今の私は

ちゃんと、持っていて

「私…まだ、貴方に返事を…返してない…」

貴方に

伝えなくてはいけない言葉も

「フェイ…」

そっと、抱き返してくれる彼の温もりは以前と変わらず

ただ優しく、名前を呼んでくれる

「私は……、私も…」

貴方と同じ想いを抱いている事

貴方の想いに答えたい

「ずっと…」

伝えたい事が有りすぎて落ち着かない鼓動、ざわめく心

それでも

答えを導こうとする心

私の言葉を待っていてくれる王子


私の返事を聴いてくれますか…?

「ずっと…貴方の傍に、居させて下さい」


微笑むように、微かに細められた瞳

優しく、確かめるように頬をなぞる指

大きくて暖かい左手が添えられる


顔を上げて

彼と交わる視線

何故、此処に居られるのか

いつまで傍に居られるのか

何も分からないけど

「あぁ、頼む」

それでも

「俺の傍から…離れないでくれ」

彼の言葉に

頬を伝う、離れたくないと願いを込めた喜びの滴

掬うように目元に触れた熱は



そっと、静かに


唇に触れた





20090710

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