人魚姫|未来END

□人魚姫と人間の王様
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「そうだ、フェイ。ずっと訊きたい事があったんだが」

「なんですか…?」

レースのカーテン越しに柔らかな光が降り注ぐ室内

向かい合いお茶の時刻を楽しむ二人

「初めて会った時に刺身がどうとか言ってただろう、アレはどういう意味なんだ?」

アースの問いにフェイは考えるように視線を逸らし、口を開く

「それは…、姉さんに『人間が人魚をお刺身にして食べてしまう』って言われてたので…」

言葉を切り、視線を伏せる

「…そうか(以前は人魚狩りをやる奴等が多かったからな)」

自分が王位を次ぐ前に起きていた出来事、もしかしたら彼女達も犠牲になっていたかもしれない…

「でも…アースさんもお城の皆さんも、そんな事をするような人達ではないので、姉さんは少し警戒し過ぎていたんじゃないかな…って、思うんです」

そんなアースの思いとは別にカップの紅茶を揺らし、傍に居ない姉へと思いを馳せながらフェイは言葉を続けた

「…いや、警戒し過ぎるぐらいで良かったのかもしれない。カバネが言った『人間が人魚を食べる』というのは、あながち嘘ではないからな」

少なくなったとはいえ、根絶やしに出来ずにいる人魚狩りから、妹を守っていたんだろう



カタンッ

椅子の音が響き、視線を上げた先に居る彼女は

「…フェイ?」

窓際に寄りカーテンにくるまり、身を隠している

「どうしたんだ?」

「ダメです、アースさんっ…!」

傍に寄ろうとしているアースを制止し、カーテンを握りしめる

「フェイ…?」

自分を映す揺らぐ瞳

微かに不安に染まる表情

何か気に障る事を言ってしまったのか、と様々な考えがぐるぐると頭を巡る

「本当に…アースさんは、人間の人達は…」

悲しげに視線を下げ言葉を紡ぐ

「人魚をお刺身にして食べてしまうんですねっ!」

「は……?」

カーテンを握る手に力を込め、涙目になりながら訴えるように声をだす

「『人間が人魚を食べるのは嘘ではない』と 姉さんと会いに…謝りに来た時も『お刺身は嫌いじゃない』って」

「いや、それは…フェイが考えている事とは意味が違うんだ」

「『食べる』には、複数の意味があるんですか…?食べたりしません…?私のこと」

涙で揺れる瞳

赤く染まる目元

上目遣いで告げられた言葉

「え…あ、いや……」

ただ一言「食べない」という言葉を望む彼女に返されたのは、意味を為さない曖昧な返事

「…食べるんですね」

「いや、違う!(そういう意味では)食べない!」

「…本当…ですか?」

カーテンから顔を覗かせ、疑いの眼差し向ける彼女を真っ直ぐに見据え、手を伸ばす

「あぁ、本当だ。だから、そこから出て来てくれないか?」

アースの言葉に視線をさ迷わせ

「本当に、食べたりしません?お刺身にしませんか?」

「あぁ、本当に刺身にして食べたりは…」

「じゃあ、スープに…?」

「は?」

言葉を遮られ発せられた予想だにしなかった言葉に、自分でも間抜けだと思う声が出る

「…スープにして食べるんですね」

悲しげな表情で小さく告げられる言葉

「いや…スープにもしない」

「では、シチューですか?」

「いや…」

「カレー?」

「いや、だから…食べたりは」

「姉さんが『人間はお刺身に飽きたら色んな食べ方で人魚を食べる』と、だから…」

「そうか…(カバネはフェイを人間から守ろうとしてたんだ)」

「特に『王家の方は一般の方が思い付かないような食べ方をする』とか」

「…(王家が人魚狩りの指揮を取っていたという噂もあったからな)」

「それに、最近では『王家の中で、王子…アースさんには特に気を付けるように』と」

「それは明らかにカバネ個人の意見だろう!?」

「え…では、アースさんは変わった食べ方はしないんですか?」

口元に手を当て、驚いたように声を上げる

「…あぁ、と言うより人魚を食べたりはしないぞ?(俺は今までフェイにどう思われてたんだ)」

「そうなんですか………あの、」

カーテン裏からアースの前へ

「なんだ…?」

視線を逸らしたままのフェイを抱き寄せ、優しく声を掛ける

「…すいません…アースさんのことを勘違いしてしまって…」

「いや、気にしなくていい。俺の言葉も足りなかったからな」

「アースさん…」

淡く柔らかな微笑みを向け、静かに甘やかな声で、囁くように名前を呼ぶ

「フェイ」

彼女の頬を撫でる指

顎をなぞり、顔を上げる

ゆっくりと近付く互いの呼吸

触れる程に近づいた二人を

「…ところで、」

遠慮がちなフェイの声が遮る

「『食べる』の、他の意味でも…食べたりしませんよね?私のこと」

「………」

「あの、アースさん…?」

「悪いが、黙秘で…」

「!?」





その後しばらく

アースがフェイを抱き寄せる度に

「食べませんか…?」

「あぁ、食べない」

といったやり取りが行われていたとか、いないとか



(カバネの教育は"行き過ぎ"ではなく"徹底的"だったのか)





20090730

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