人魚姫|未来END

□歌声に乗せた
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「Laー…」

控え目ながらも、染み行くように響き渡る透明な歌声

異国の言葉だろうか、この国では聞かない言の葉が、柔らかく澄み渡る

海を見据え、ドレスが汚れないギリギリの位置に立ち続けられる歌

背を向ける細い肩に伸ばした腕

「ー――…!アースさん…?」

軽く抱き寄せた身体

「まだ、届かないか…?」

お前が歌を捧げている相手に、心の中で続ける言葉

「…はい」

一瞬、曇った表情

海を見つめる瞳

祈るように組まれた指

「…届かないんでしょうか、姉さんに」

遠慮がちに身体を預け、揺らぐ瞳を向ける

「フェイ…」

白い頬に手を添え、ゆっくりと上げた顔

「…アースさん…」

近づく二人の呼吸

「国王陛下ー!王妃様といちゃつく暇があるなら、さっさと公務を終わらせて下さーい」

呆れを含んだ声がわざとらしく遮る

「フェ「アースさん、お仕事を放って来てはいけませんよ」

息遣いが聞こえる至近距離で

「私も、夕刻の鐘がなったら戻りますから…ね?」

子供に言い聞かせるような口調で、上目遣いに見つめられる

「…分かった、戻る」

ここが外でなければ…、余計な考えを打ち払い、彼女から手を放す

するり、と離れる体温を名残惜しく思うと同時に

「陛下ー有能な家臣がお呼びですよー」

やる気なく叫ぶ家臣を鬱陶しく思う

「フェイ。此処に誰も来ないとはいえ、暗くなる前に帰ってくるんだぞ」

「はい、分かっていますよ。アースさんもちゃんとお仕事して下さいね!」

「あぁ…」

柔らかく微笑む額に軽い口づけを送り、薄紅色に染まったフェイに押されるように城内に戻ると

「…なんだ?」

諦めたような表情をした家臣に迎えられた

「陛下には公務をサボった罰として仕事を増やしておいたので、まぁ…頑張って下さいね」

歩きながら、めんどくさそうに告げられる

「増やしたって…」

只でさえ多い仕事を、こいつは…

「明日やって頂こうと思っていた分を今日に回しただけです、夕刻の鐘が鳴る前に終わると良いですね」

そう言い、開かれた扉の先

机を埋める紙の山

「………」

絶句する俺をよそ目に

「王妃様との時間の為に頑張って下さいね、国・王・陛・下」

楽しそうに告げ、部屋を出ていく

鐘が鳴るまで数時間



「…終わったら奇跡だろう」

一人立ち尽くす部屋

思わずこぼれた誰に聞かれる事もない言葉は、虚しく部屋に響いて消える



(ここまで届くフェイの歌声がなければ、確実に投げ出していただろうな)





20090911

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