人魚姫|未来END

□貴女への想い
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一人佇む砂浜

遥まで届くように、遠く伸びた高音

「………姉さん」

歌が終わり、呟いた言葉


応えはない。ただ、風と波の音だけが響く

「もう、会えないんですか…?」

知らず震えた言葉

視界は滲み、海と混ざる雫

「姉さんっ…!」

海に叫ぶ声は微かに掠れていた

俯き、落とした視線の先

「…あ」

いつの間にか濡れているドレスの裾

これ以上、濡らしてしまわないように一歩海から離れた

「濡れちゃったわね」

「え…?」

ごく普通に掛けられた言葉

「どうかしたの?」

さっきからその場所に居たかのように、からかいを含んだ笑みを浮かべ、軽やかに発せられた言葉

「…姉、さ…っ!」

「!!」

バシャン、っと飛沫を上げてドレスを濡らし、肌に触れた冷たい海水

勢いよく抱きついた、海中で冷えた身体

背に回され、抱き返してくれる細い腕

「どうしたの?フェイ」

「ふぇっ…、おねぇ…ちゃ…」

「…ほら、泣かないで」

子供をあやすような優しい声

なだめるように背中を叩く

「…ぅん……ふっ、く…」

言いたい事はたくさんあるのに

涙が止まらなくて

代わりに強く、強く、抱きしめた

「フェイ…」

名前を呼んでくれる声も

抱きしめてくれる腕も

背に、腰に触れながら下へ向かう手も、幻なんかじゃなく姉さんがここにいると…

「?(下へ向かう手?)」

不意に感じた違和感

顔を向ければ、妖しくも確かな意思を持ち、身体をなぞる姉さんの左手が視界に入り
右手は背中に回されたまま、力を込められ、強く抱き寄せられる

「あの…姉さん、なにを?」

ゼロに近い身体の距離

すっかり濡れてしまったドレスの裾

「あら、決まってるじゃない」

唇が触れてしまいそうな距離

妖艶な笑みで捲り上げられるドレスの裾

「っ!?な、なな、何してっ…!?」

「え?見て分かるでしょう?ドレスを捲っているのよ」

「そうじゃなくて!何で、捲ってっ…!」

慌てて裾を押さえても

「私が見たいからよ」

きっぱりと告げられた言葉と、迫るように近寄る姉さんにバランスを崩し、後ろに倒れる身体

「冷たっ…!」

波打ち際に仰向けに倒れた私を、覆い被さるような体制で楽しそうに見下ろす

「ドレス、濡れちゃったわね」

「っや!」

膝上まで捲れた裾、足をなぞる指、くすぐったさに上がる声

「姉さっ…やめ…」


「それは出来ないのよ、フェイ」

真顔で告げて、私の肩に頭を預ける

「姉さん…?」

見えない表情

首元に掛かる息づかいがくすぐったい

「そう、止める事は出来ないのよ?」

「〜〜〜っ!!?」

ふうっ、と耳に息を吹き掛けられる

「あらあら、言葉になってないわよ」

目を細め、楽しさを前面に出した笑顔を向け、私を見下ろしたまま笑う

「もう…、なにするんで「嫌がらせよ」

「え?」

言葉を遮り返された答え

「そう、嫌がらせなのよ。本当は王子が一人で此処に来たら、死なない程度にやろうと思っていたけど」

呆気に取られる私を余所に、悪い顔をして話を続けていく

「王子は一人で来ないし、すぐにフェイといちゃつくし、なんだかんだでフェイも全然拒否しないし」

「あ、あの…姉さん…?」

「分かる!?フェイ!!私を呼ぶ貴女に、何を言ったらいいか悩みながら、ずっと傍で歌を聴いていたのに!」

「え…ずっと?」

「そうよ!それなのに貴女達は、人目に付かない場所だからって遠慮なくいちゃついて!私が毎日、どんな思いで聞いていたのか!フェイには分からないでしょう!?」

「………」


力強く語る姉さんの話は、私から言葉を奪うのに充分過ぎて

「さっきも随分と、甘いとしか言い様のない空気を漂わせていたわよね?」

「え…?あ……ね、姉さん、今ま…で、のも…全部…ずっと聞、ぃて……?」

身体から血の気が引いていく気がした。それと同時に、身体中の熱が顔に集まったかのように熱くなった気も…姉さん、今の話は全て嘘だと言って下さい

「えぇ、一字一句漏らさずに。信じられないのなら、さっきの王子との会話を言ってあげるわよ」

「遠慮します!!!」

「あらそう?…残念ね。じゃあ、嫌がらせの続きでも…」

「!?駄目ですよ…っ!」

胸元のリボンに伸びた姉さんの手を抑えながら、身体を起こす

「いいじゃない、…少しくらい、ね?」


そう、不敵に笑う姉さんとの攻防は夕刻の鐘が鳴るまで続き

「あら、もう時間ね。仕方ないわ…続きは明日にしましょう」

それだけ言い残し、軽やかに身を翻し帰る姉さんを見送った直後

「フェイ!?一体何があったんだ!!?」

迎えに来てくれたアースさんに、びしょ濡れになった(+ドレスが乱れた)理由を事細かく話す事になったのです

「明日は俺も行くからな!」

「はい。…お願いします」



(私は、しばらく会わない間に、姉さんの事を少し忘れてしまっていたみたいです)





20091013

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