小説置き場

□それは他人事ではなく
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「どうかしたの?アース」

「ふぇ…?」


キリクとフェイが向かい合っている、だけ


想像してた事は起きていないようだ


「あーひゅひゃん??」

「っ…!!?」


扉を開けたまま立ち尽くす俺を不思議に思ったんだろう

フェイが顔を覗き込んできた


咄嗟に鼻を抑える

油断していた

危うく首を傾げながら、舌ったらずに名前を呼ぶフェイに理性が砕け散る所だった

キリクが居なかったら、間違いなく襲い掛かっていただろうな


「…アース。大丈夫?主に頭が」

「らいよーうれしゅか?」

「だっ、だだだ大丈夫だっ!!そ、それよりも、お前達は何をしてたんだ?」


キリクの氷よりも冷ややかな言葉と視線を受け、何とか理性を保たせる

フェイを見れば口元を隠し、何やら時折、艶っぽ声を漏らしている


「何って、新しい飴の味見をしてもらってるだけだけど?ただ…」


そこで一旦言葉を切り、キリクの視線がフェイに移る

続くように視線を移せば、フェイが困ったように眉を寄せ、モゴモゴ言っている


「最後の一個は余った材料を丸めたから、大玉になって苦戦してるけどね」

「…そうか」


なんだ、聞けばなんてことはない

不純な想像通りではなく良かったような…なんとなく、残念なような


「ところで、アース」

「……なんだ?」


静かに、冷たい、キリクの声が呼ぶ


ふと見れば、笑っていた

口元だけが、黒い影のある笑顔で

一歩だけ近付いた距離で


下から睨むように、見透かすように

目は笑みを浮かべずに


キリクが黒い笑顔を向けている


「本当にそれだけで、アースに邪魔されるような事は何もしてなかったのに」


わざとらしいため息

一旦切られた言葉は、ワントーン下げた声により紡がれる


「なんで、割って入ってきたの?」

「…声に殺意が混ざってるぞ」

「気のせいじゃない?」と返されたが、とてもそうは思えない

確かに、結果は邪魔したことになるが、それが目的だった訳じゃない


言うなれば、事故だ。不慮の事故

…流石に、『二人の会話から不埒な想像をしたから』なんて言える筈もない


「すまん、なんでもないんだ」

「ふぅん?なんだ、てっきり…」

「ぐっ!?」


胸ぐらを掴まれ、力一杯引かれる

突然の事に対応出来ずにいると、


「僕達の話しを聞いてて、フェイ出演のとても口には出せない想像でもして、止めに入ったんだと思ってたよ。勘違いしてごめんね」


耳元で声を潜め、告げられた棒読みの言葉

全部気付いていたのか


というか、俺はそんなに分かりやすいか?


「フェイには黙っててあげるから、二人きりにしてくれるよね?」


それは脅しじゃないのか

だが、フェイに知られたらどんな反応を返されるのか想像もつかない


恋愛に関して、とことん初な彼女の事だ

理解出来ないか、引かれるか


「どうするの、アース」

「っ…!分かった、引いてやる」


言うと同時に、手が離された

正直、年下相手に引きたくは無かったが、キリクは恋敵の中で一番厄介な相手だ

今は下手に逆らわないでおこう


フェイを見れば、未だ飴に苦戦中のようだ

この様子なら、まだキリクに先を越されるような事もないだろう


「邪魔したな」


かなり悔しいが、大人しく台所を後にした





実際、俺の予想は当たり


あの後キリクに習って作ったのだと、フェイが少し歪な飴を配りに来たからな


流石にこの時ばかりは、ライバルと言えど少しばかりキリクに同情した

楽しそうに語るフェイの話を聞く限り、キリクからあからさまなアプローチがあったようだが、彼女の持つ一切気付く様子のない鈍感さと、さりげなくかわす天然発想により、何一つ伝わっていないらしいからな

鈍感で天然、加えて手を出すことを躊躇う程に恋愛事に純で無知な彼女自身こそ、俺達にとっては最強最大の恋敵なのかもしれない





(俺の想いも伝わってなさそうだしな)

(アースさん?…私、何か?)

(いや、なんでもない)





20101104
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