小説置き場

□甘いあまいビターチョコレート
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厚い雲が空を覆い、星を隠す

「…はぁ」

フェイは白い息を吐き時計を見る
針は9時を過ぎていて、フェイはまたひとつ、白い息を吐き俯いた

視界に入る小さめの紙袋、中に入れた想い

「…アースさん」

2月14日、甘い香りが街中を満たす日

それもあと数時間で終わりを告げる

昼間にキリクの指導を受けながら、皆でチョコレートを作って、渡した

いま持っているのは昼間に渡したモノとは違う、ただ一人の為の特別なチョコレート

「フェイ」

「!?あ、…アースさん」

突然肩に手を置かれて、名前を呼ばれる

振り向き、申し訳なさそうに目を伏せるアースを見上げた

「すまん、少し遅れた」

「いえ、いいんです。私もついさっき、来たばかりですから…」

謝るアースに笑顔で返す

確かに待ち合わせの時間は過ぎていたが、この寒空の中来てくれたのが嬉しかった

「そうか…?なら、いいが…ところで、こんな時間にどうしたんだ」

一歩だけ距離を縮め、アースはごく自然に、包み込むようにフェイの背に腕を回す

「え…っと、…コレを、渡したくて…」

アースの行動に頬を染めながら、紙袋を自分の顔の前まで上げた

「中身はなんだ?」

「…チョコレート、です」

上目遣いで告げるフェイの言葉に、アースは疑問符を浮かべた

チョコレートなら昼間に、マクモ達と一緒に貰って、その場で食べたのだ

「俺に、なのか?」

「はい。…あの、形が上手く出来なくて…でも、味は大丈夫だって、キリクさんが言ってくれたので…ちゃんと食べれます。…?あ、あの、アースさん…?」

無意識の内に腕に力が入り、フェイを抱き寄せていたようで、フェイが声をあげた

だが、そんなことに構ってはいられない

今フェイは、何て言った?

「キリクも食べた、のか…?」

「はい。味見をして頂いて…でも、それがどうかしましたか?」

味見、か…キリクはパティシエだし、互いに他意はないのだろうが

「いや…ありがとう、フェイ」

チョコレートを受け取り、腰に回したままの左腕で距離を詰め、耳元で告げる

途端に耳まで朱に染まるフェイを、誰にも渡したくないと思う

手放したくないと

「あ、あの!まだ、もうひとつ…あって」

勢いよく顔を上げたが、語尾は段々と弱く、小さくなっていく

「チョコレートはもういいぞ?」

フェイから貰うのは嬉しい
だが、甘いものはあまり好きじゃない、というよりも苦手なものに入る

「違っ…チョコレート、では…っ、あ、あのっあの…アースさん!」

「?なん、っ…!!」

意を決したように、アースの服を握り、背伸びをして顔を近づけて

「……好きです」

唇の端、ギリギリのところ
ほんの一瞬だけ触れて、小さく囁いた

「どう、し、たんだ…?急、に…」

フェイからのキスも告白も数えられる程度、嬉しいとしか言い様のない出来事

ただ、動揺のあまり赤くなっているであろう自分が情けない気もするが

「私…らっ…て、あまり…なっ…から、」

俺以上に赤くなってるフェイが、聞き取れなくなりそうな位の小さな声で告げる

「そぅ…か…」

「…はい」

お互いに顔を見れなくて、無言のまま

「…ありがとう」

「ぃい…え、そんな…っ」

熱が引くまで、抱きしめ合った



冬がこんなにも
"暖かい"とは知らなかったな…





20100314

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