小説置き場

□飴玉ひとつ転がして
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可愛らしく包装された飴

ひとつ口に含んだ大玉のソレは

食べ慣れない甘い味



昼食が終わって、後片付けの為に台所に居るフェイの後ろに立って、気付かれないように気配を消して手を伸ばす

「どうかしましたか?」

だが、その手が触れる前に気付かれ、作業を続けながら声を掛けられる

「…まだ掛かるか?」

悔しいので邪魔にならないように抱きつく

「いえ、もう終わりますよ。他にもやる事は、たくさんありますけどね」

苦笑混じりに話してるのも可愛いと、少しだけ抱きしめる腕に力に込めると「苦しいです」と軽く咎められた

食事を作ってる時だと怒られるが、後片付けの時は構わないらしい

今度からは後片付けの時を狙おう、そう心に強く誓う

「ところで、」

後片付けが終わったらしく、キュッと水を止めて顔を上げる

「なにか、…甘い匂いがしません?」

「あぁ…」

フェイの後頭部に手を回し、固定する

「これだろう?」

「ふぇ…?」

唇を合わせ、舌を絡める

「あ…ふぁ?らめっ…な、…!」

口に含んでいた飴をフェイに移す
まだ甘さは引かないが、一旦離れる
すると「うー」と不機嫌そうに睨まれた

「そう怒るな…ところでどうだ、その飴」

「むぅ〜…甘いれしゅよ」

「っ!!?」

結局機嫌は悪化したらしいが、飴が邪魔なのか舌ったらずな話し方になっている

鼻血を噴かなかった自分を褒めてやりたい

「ふっ…も、なんなんれしゅかぁ!」

フェイもこの喋り方が恥ずかしいらしく、頬が真っ赤に染まったままだ

「〜〜〜っ!!?」

俺が鼻血を噴くのも時間の問題だな

「もぉ、あーしゅしゃん!」

「ちょっ…待て、フェイ」

「あーしゅしゃ…ぅゆ!?」

流石に耐えられなくなって、フェイの唇を塞いで、飴を取り出す

「…ふぅ、これでいいだろう」

「もう、なんなんですか急に!」

開口一番にそれか、さっきより小さくなったいちごミルクを転がす

「今日はホワイトデーだろう?だから、お返しのひとつに…って思ってな」

「え…お返し?」

疑問符を浮かべるフェイの腕を軽く引いて、リビングのテーブルに置いた飴と

「これもな」

布を掛けて隠しておいた服
普段でも着ることが出来るように、装飾は少く、そのかわりに華やかな刺繍を施した

「え、あの…いいんですか…?」

さっきまで怒っていたのはどうしたのか、ふわりと花が開いたように微笑む

「あぁ、お前の為に仕立てたんだからな」

「…もったいないですよ、私には」

照れたように笑う
さっき見た可愛らしく怒る姿とは違い、今の微笑みは綺麗だと思う

「俺には、まだまだ足りないと思う」

バレンタインにフェイから貰ったのは、チョコレートだけではない

控えめな彼女からの、精一杯の想い

「そんな…充分過ぎますよ」

「もらってくれないと困るんだが…?」

甘く囁くように、優しく抱きしめる

「あ…!そう、ですよね」

言葉の意味に気付いてくれたのか
遠慮がちにゆっくりと俺の背に手を回して、そっと力を込めている

「ありがとうございます」

いつもより綺麗な微笑みで言われた

本当に嬉しいんだな、でも

「フェイ、こっちを向いてくれないか」

「はい…え?」

またフェイの口に飴を移す

あんな真っ直ぐに礼を言われるのが、嬉しいようなくすぐったいような

とにかく、なんとなく恥ずかしくて

「その飴、俺には甘過ぎるんだ」

半分は嘘で、半分は本音

照れ隠しでしかない行動だが

「もう…仕方ないれしゅね」

その想いは充分に伝わってしまったらしい

飴が小さくなった分、多少言葉もはっきりしてきたようだが

「さっきのも可愛かったな」

「ん…?」

冷たく無表情で睨まれ、スッとフェイの周りの温度が下がった気がする

そのまま顔を逸られてしまったが、時折コロコロと小さな音が聞こえてくる

「フェイ…」

「っ…はぁ…ん…」

顔を近づけると、予想していたらしい
なんの抵抗もなく受け入れられて


飴が二人の間を行き来する


何度も何度も繰り返し



飴が溶けきる、その時まで





20100314

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