小説置き場

□ココアよりも甘く
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時計は12時を回り、辺りを静寂が包つ

「ん……?」

なんとなく寝付けなくて、水でも飲もうかと部屋の扉を開く

すると、ふわりと甘い香りが漂ってきた

廊下を満たす香りを辿った先、目的地でもある明るく照らされたキッチン

「…誰が起きてる?」

声を掛けてなかに入る
部屋の中心に置かれたテーブルには、カップケーキとラッピング用の箱やリボンと

「フェイ…?」

「すー…すー…」

自分の腕を枕にして眠るフェイの姿

手元にはシンプルな便箋、書き損じたらしい数枚が隅に避けられていた

そこに書かれていた名前と、何度も書き直されている言葉

ふっと口元が緩んだ気がした


「んっ、ん……?」

眩しさに目を細めながら、フェイが目を覚ました…額を押さえながら

「おはよう、フェイ」

その手を掴んで、視線を合わせる

「え…あ、おはよぅ…ございます…?」

寝惚けているせいか、どこか虚ろな瞳は僕が持っている便箋に向けられた

「部屋に戻ったら?風邪引くよ?」

「いえ、もう少しだけ。あの…キリクさん、その便箋…どうして…?」

頬を赤く染めて話す姿は、年上とは思えないくらい可愛く見えた

「僕宛だったから、構わないかなって…」

便箋を渡して、コップに水を汲んだ
そういえば、水を飲みに来たんだっけ

「…構いません。けど、」

ぎゅっと俯き、自身の華奢な身体を抱くフェイは微かに震え、言葉を詰まらせた

「信じていいんだよね」

「え…?っ!!」

顔を上げたフェイに軽いキスを送る

「…嫌だった?」

意地悪な質問だと思う

答えは分かっているんだから

「そ、そんなっ!嫌じゃない…です」

「じゃあ、目を閉じて」

「っ!!?」

懸命に言葉を紡ぐフェイにお願い事
途端に湯気が出そうな程真っ赤に染まり、それでもきゅっと目を閉じる

そっと頬に手を添えて

ゆっくりと優しいキスをした




『好きです』

たったひとつの言葉

それに込められた想いに応えるように





20100314

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