小説置き場

□透明な雫
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雨が降り、人気のなくなった場所

吐き出した息は白く、水を吸った服が肌に貼りつき、重く纏わりつく

降りだしたのはいつだったか

用があって家を出た

途中で降り出し、帰るよりも行く方が近いと歩き続けた…気がする

慌てて帰路に着く人々、人気のなくなった場所を歩いていたら、ふと…堕ちるような


「なにを…?」

空を見上げる

暗く厚い雲、止まない雨と強まる風

長いのか、短いのか、時間が経つ


何をしていたのかさえ、分からなくなり

立ち止まると進めなくなった


「進まないと」と急かす心に

「進めない」と身体が返した

なんで、立ち止まっているんだっけ…?

足元に出来ていた小さな水溜まりを覗く

伝う熱と落ちる雫は、途中で混ざり一滴づつ足元に溜まっていった

ふと、近付いてくる音があることに気付く

スッと、雨と俺を遮る月色

ゆっくりと振り向いて、瞳に映す

「風邪…引きますよ」

「…フェイ」

腕を伸ばして、俺が濡れないようにと傘を差し出していた

そのせいで自分が濡れてしまっているのに、そんなことを気にも留めず

「帰りましょう」

優しく柔らかい眼差しと静かに透き通るような声で、真っ直ぐに見つめてくれる

「ひゃっ…ん!」

「…フェ、イ…っ」

細い身体を抱き寄せる

驚き小さく声を上げたフェイの手から、傘がふわりと舞い落ちた

ぎゅっと抱きしめると、優しく抱き返して

「アースさん」

囁くように名前を呼んでくれる

頬を伝う暖かな雫も

降り注ぐ冷たい雫も

「アースさん」

その小さな身体で、ふわふわの羽根で包み込むように受け止めてくれる

熱を奪う雫ごと抱きしめてくれる



雨が止む、その時まで





20100228

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