SS置き場

□それは過去だと…
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君の白い手の平に

赤い蝶が一匹

捕らえもせず、逃がそうともしない

ただ、お互いがそこにいるだけ

ふわり、蝶がゆっくりと羽を動かして、舞うように音もなく飛び立つ

その動きを目で追う君の動きが止まった

蝶の向かう先

そこにいた僕を、その鮮やかなアメジストの瞳に捉えると同時に

光の加減だろうか…?ほんの一瞬だけ、アメジストが赤く輝いた

「フェイズ」

「なんですか」

エッジさん、そう今までは続いていた

嬉しそうに笑いながら、君の口から紡がれていた僕の名前

「フェイズ」

「…なんですか」

名前を呼べば、さっきよりはやや遅く返される返事の言葉

紡がれない、僕の名前


僕に向けられた瞳は、今までと変わらずに綺麗な輝きを魅せるのに

まるで氷の塊や人形の瞳にさえ思える程、深く冷たく印象を受ける

「用がないのでしたら、先に戻りますよ」

僕からの返事を待ち、アメジストが真っ直ぐに僕を見据えている

それでも、何も言わずに居る僕と

何も言おうとしない君

お互いに沈黙し、ただ流れる時間


ひとつ、小さく吐かれた息…伏せられた瞳に合わない視線、横切る華奢な身体、風に舞い腕を掠めた黒いマント


手を伸ばせば届いた距離


それでも

「…フェイズ」

あの日以来、あまり僕の名前を呼ばなくなった君に


振りほどかれるのではないか…?

ただそれが怖くて

君に触れることが出来ずにいる


『エッジさん!』

幼さの残る大きな瞳を向けて、微かに頬を染めながら笑っていた君は

もう、居ないのか…?

二度と触れることは出来ないのだろうか





20090823

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