SS置き場

□赤い蝶々
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ひらり、舞う

赤い蝶が一匹、僕の傍で

何気なく出した右手に止まり羽根を休める

時折羽根を動かすが、逃げようとはしない


しばらくして弱く風が吹き

ふわり、宙に浮く赤

ゆっくりと羽を動かし、音もなく飛び立つ

なんとなく視線で追った先

蝶が向かった場所

いつから居たのだろう、太陽の光を反射し輝く金髪の持ち主と視線を合わせると同時

ほんの一瞬、脳裏が赤く染まった

「フェイズ」

「なんですか」

エッジさん、今まではそう続けていた

貴方に呼ばれるのが嬉しくて、自然と紡がれていた貴方の名前

「フェイズ」

「…なんですか」

名前を呼ばれ言葉を返す

けれど、

僕の口は素直に貴方の名前を呼ばない


貴方から向けられる瞳に混ざる、戸惑い

理由がある訳じゃない

ただ呼べない名前


ふと、視界に入る赤い色

ゆっくりと舞うように飛ぶ赤い蝶

アカイアカイ――――…


すっ…と、闇が降りてくる気がした

「用がないのでしたら、先に戻りますよ」

口からは自分でも分かるくらい、冷たく突き放すような言葉が紡がれた


貴方は何も言わないし、僕も何も言わない

沈黙した時間は長くは続かず

先に動いたのは…僕、だった

ひとつ、小さく息を吐き…視線を逸らし横を通る、視界の端に見えた腕を掠めた黒いマントと
微かに動いた貴方の右腕


手を伸ばせば届く距離


だけど


「………」

あの日以来、口にしなくなった貴方の名前


理由なんて分からない…


視線は貴方を追うのに

身体は貴方を避け、僕の口から貴方の名前が紡がれなくなった


『エッジさん!』

簡単に呼べた名前

離れた場所から呼ぶ声に、立ち止まり駆け寄るのを待っていてくれていた

それなのに今は

例え、隣に居たとしても…

触れられない位遠くに、貴方を感じる



いっそのこと

貴方が見えない、ずっと遠い場所へ…





20090828

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