Silver
□【素直】
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山崎をタコ殴りにしている場合じゃなかった
轟く銃声。
まさかあんたが撃たれるなんて
いや、予測は出来た事態だ。
例えどんなに悪人でも、上に護れと言われた糞ガエル、あの人が護ると言ったからには。俺は、そんなあの人から目を離すべきじゃなかったんだ。
瞳孔おっ広げた総悟止めながら、本当にガマをたたっ斬りたかったのは他でもない、俺だったんだ。
でも、本当に良かった、命に別状が無くて…あんたを失ったら俺は−。
∞
「まったく無茶する大将だな」
「はは、ならそれを言うなら、この大将にしてこの仲間有りだな」
「笑い事じゃねー」
全てに片を付けてから、肩に穴空けながら指揮を取った近藤さんを見舞う。流石にその後は大人しく寝ていたようで、後数日で復帰できるそうだ。
顔色も良く笑みを浮かべるあんたを見ながら、俺は安堵と共に深い悔恨に苛まれた。
「ん?どしたトシ、腹でも痛いのか?駄目だぞ拾い食いとかしちゃ、俺じゃないんだから〜」
俯き黙り込んだ俺にあんたは、自虐的な冗談で場を和ませようとする。
泣きたくなってきた、自分の情けなさに。
「…悪かったな、俺がもっとまともな作戦立ててたら、あんたにケガさせずに済んだはずだ」
「トシ…」
「本当なら“次は”なんて言えねーが、よく考えるよ」
そのまま立ち上がり、近藤さんの部屋を後にするはずだった。それが出来なかったのは、腕を掴まれたから。
「待てよ、トシ。あれはドジ踏んだ俺自身の責任だ、お前が罪悪感を持つ必要はないぞ」
「…そーゆー訳にはいかねーんだよ」
「トシ、こっち向けよ」
「…」
「トシ」
あんたがそんな優しい声で俺を呼ぶから、俺は逃れられなくなるんだ。聞こえないほどの小さな溜息と共に振り返る。
「…泣くなよ、トシ」
「泣いてねー」
「此処が泣いてんだろ」
近藤さんは空いている左手で俺の胸の辺りを突いた。
「そんな謝りの言葉じゃなくて、普通に“近藤さんが心配だった、生きていて嬉しい〜”って言えばいいんだよ」
「なっ…!言わねーよ、んな甘っちょろい事!!」
あっさりと俺の心の底の想いを引きずり出す。更にその奥底に隠された想いには気付かないくせに。
(何考えてんだ俺、気付かれちゃ困るだろーよ)
頭を軽く振り、俺は掴まれ熱さを増してゆく腕から逃れ、今度こそ部屋を出る。
「くだらねェ事言ってねーで早く治せよ、仕事溜まってんだからな」
最後にそんな捨てゼリフを残し襖を閉じた。
きっと近藤さんは偲び笑っているだろう。
俺は少し赤くなった顔と、相反す想いに軋む心を癒そうと足速に屯所を出た。
(俺が素直になんかなったら、言っちまうだろ、あんたがスキだって。そうしたら、困るだろ?だから素直になんかなんねーよ。そう決めたんだ、ずっと前から。俺はあんたの命も志も生かすためだけに傍らに在り続ける。それ以上は望まねーよ…)
俺は眩しいほどの青空に紫煙を吹き上げ、鬼の副長の顔に戻る−。
20071105UP
コミック一気読みのせいか、原作沿いの話しをやたら思い付きます(笑)。