Silver
□【喪失】*
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ジャスタウェイ事件の後再び記憶を無くした近藤は、それでもそのまま真選組に戻る事になった。
だが記憶は一向に戻る気配も無く、危なっかしいので日々局長室に篭り資料や報告書に目を通したりして大人しくしていた。
真選組はまるで、太陽を失ったようであった。
そして副長は、この世の全てを失ったような思いを味わっていた−。
「あのー土方、さん?」
「…さんはいらない、俺はあんたの部下だ」
「はぁ…でも、今の俺はタダ飯喰いみたいなものだし」
困ったように笑う顔は、同じであって、違うもの。土方は堪え切れずに視線を逸らした。
(あんたが、俺を、真選組を忘れたりするなんて−)
「悪ィ、用事思い出した…」
「え、あっ、ちょっと−」
最初はどうせ直ぐに治るだろうと高をくくっていたが、日増しに募る不安と違和感に土方の神経も限界だった。
このまま近くにいたら、罪の無いこの“近藤”に当たり散らしてしまいそうでとっとと離れようとしたのだが、予想外の力に引き止められた。そして。
「−俺、いないほうが良いのかな?」
「!?何、を−」
そして紡がれた衝撃的な言葉に土方は凍り付いた。
「だって、皆、特に土方さんは辛そうだ…俺の存在がもし重しなら−」
(記憶が無くても、あんたは自分より俺達なんかの事ばかり優先するんだな…狡いよ、あんた、そんなとこだけ忘れないなんて−)
土方は足の力が抜け、思わずその場にしゃがみ込んだ。
「土方さん!?」
「違うんだ…あんたは何も悪くないんだ。俺が、悪いんだ、俺が−」
力無く呟く土方に、近藤は驚きただ見守る事しか出来なかった−。
続
20080301