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□宇宙を駆ける君へ
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 本当にこれで良かったのだろうか。彼が望むままに、彼を死闘の地へ行かせることは間違いではなかったか。彼に嫌われても、憎まれても、止めるべきではなかったのか。
 一度は整理をつけたはずの気持ちが吹き上がり、収拾がつかなくなる。
 長い間、グラハムと共に在りすぎた。グラハムのそばに居すぎた。だから、らしくなく、軍人に情を移し、軍人の思いを理解してしまったのだ。
 グラハム、行かないでくれーー。
 そんな言葉が喉に引っかかり、ビリーの胸を締め付けた。
 止めるなら今だ。今ならまだ間に合う。烈しい情動が押し寄せる。けれどビリーは「駄目だ」と湧きあがる気持ちを抑えつけた。
 グラハムに飛ぶ手段を、戦う術を与えたのは自分だ。覚悟を持ってしたことだ。自分の行為に責任を持たなければならない。矛盾があってはならない。翼を与えたのなら、それを纏って空へ飛ぼうとする彼を、笑顔で送りださなければならない。
 情が移っただけならば、なりふり構わず止めることも出来ただろう。けれど、思いまで理解してしまったビリーには、グラハムの行く手を塞ぐことなど出来はしない。強いものに惹かれる気持ち、仇を討ちたいという執念、死んでいった者たちの思いを背負って戦いたいという激情。それらを狂気だと思うことは、もう出来ない。
 全身全霊を注いで、愛しい人を死地へ送り出すなんて、むしろ狂っているのは自分の方ではないか。ビリーは、ポケットの中でぎゅっと震える拳を握りしめた。
 そのとき、ふとグラハムが振り返る。
「そう悲しそうな顔をするな」
「おや、そう見えるかい?」
 ビリーは平然を装って息を抜き、おどけたような笑みを浮かべた。
 グラハムはリールから手を放し、ビリーの方へ向き直る。そして、ふっと笑みを零した。
「見えるな。まるで死者を送りだすかのようだ」
「グラハム……縁起でもないよ」
 自然と声音が低くなる。顔が引きつるのを、ビリーは感じた。
 しかし、今から戦地へ赴こうとしているグラハムは、いつもと全く変わらぬ様子で不敵な笑みを口元に刻む。
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