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□バレンタインスペシャル
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「カタギリ、明日はバレンタインだそうだ」
グラハムが唐突にそんなことを言い出したのは、すでに深夜だった。場所は対ガンダム調査隊の研究室。いつの間にか、残っているのはグラハムとビリーの二人だけになっていた。
グラハムがなんの脈絡もないことを言い出すのは別段珍しくもない。ビリーはかたかたとキーボードを打ちつつ、モニターと睨み合ったまま、相槌を打った。
「ああ、そう言えばそうだね」
ビリーはふっと一息ついて顔をあげる。眼鏡の奥の瞳に悪戯な光を浮かべた。
「チョコ、くれるのかい?」
グラハムは一瞬きょとんとした顔をする。そういった表情は、彼の実年齢と比べると、大分幼く見えた。そのまま黙っていれば可愛いというのに、グラハムは
突然弾けたように笑い出した。
「ふはははははは。これは傑作だ。なぜ私が君にチョコをあげなければいけないんだ?」
「……僕たちは付き合ってるんじゃなかったかな」
「そんなことは知らんよ」
「……」
全くもって酷い言い草だ。ビリーが憮然として沈黙を守っていると、グラハムは焦れたように口を開く。
「カタギリ、ものは相談なんだが」
「僕はチョコ、あげないよ。チョコは貰う主義だからね」
「誰が欲しいと言った」
「違うのかい?」
「違うな」
グラハムは鼻で笑って肩を竦めた。
「乙女座の私としては、バレンタインという行事には出来うる限り参加したいと思っている」
「だから僕にチョコを」
あげればいい、とビリーは言おうとしたのだが、グラハムはみなまで聞かずに言葉を重ねる。
「カタギリ」
そう名前を口にしたグラハムの眼差しは真剣そのもので、ビリーは無意識的に言葉を飲み込んだ。ぴんと空気が張り詰める。ただならぬ雰囲気にビリーはごくりと喉を鳴らして、耳を澄ませた。グラハムが何を言い出すのだろうかと。
グラハムは徐に形の良い唇を動かす。
「カタギリ」
「なんだい?」
「ガンダムに」
「ん?」
「ガンダムにチョコをあげるにはどうしたらいい」
「ぶっ」
ビリーは思わず吹き出した。