SS

□ダブルドーナツ
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 ビリーは憔悴しきっていた。モニターを見つめる目は据わっている。
 彼の精神は、新しいフラッグでの出撃を待ちきれないグラハムによって続く、軟禁状態の毎日に、知らず知らずと病み始めていたのである。
 しかしグラハムとて悪気がある訳ではない。ビリーの身体を気遣ってコーヒーは淹れてくれるし、差し入れにはドーナツを持ってくる。悪意があってのことならば怒ることも出来るが、そうでないのだから打つ手がない。
 そんな訳で、ビリーは大した反抗もせぬまま、勤勉な態度で研究と開発を続けていた。

 モニターを睨む深いクマが刻まれた虚ろな目。その両手には花。否、ドーナツ。
(ああ、ガンダムに匹敵する性能を実現する為には……)
 行き詰まったビリーはモニターに浮かんでいる『機動戦士ガ●ダム00』の文字から目をそらし、ぎこちない動きで、視線を両手のドーナツへ落とした。
「……」
 なんとなく頭を掠めたものがある。
 ビリーはもう一度モニターへ画面を戻した。
「……」
 やはり頭の片隅に何かひっかかるものがある。今度はドーナツへと視線を戻す。その一連の動作を繰り返し、三度ほどドーナツとモニターとを見比べた挙げ句、ビリーはハッと気が付いた。
「そうか……そうだったのか!」
 思わず漏らした声に、パイロットスーツで待機していたグラハムが、腰を浮かせて反応する。
「どうした、カタギリ! ついに完成したか!?」
「いや、違うよ」
 ビリーはゆっくりと首を横に振る。
「でも……もっと凄いことだ。僕は真実に辿り着いてしまった」
 ごくりと喉を鳴らし、両手にドーナツを持ったまま、ビリーはくるりと椅子を回して、背後のグラハムと視線を合わせる。
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