献上小説置き場2
□ワガママな執事
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2ヶ月前。
実家から手紙が届いた。
そこにはこう一言、「おまえに執事をプレゼントする」とイタリア語で書かれていた。
「…は?」
父親の突拍子もない思いつきはいつもの事だが、執事とはまた意外なところをついてきた。
おそらく用心棒としても兼ねているのだろうが…。
そして次の日、借りているアパートのインターホンが鳴った。
セールスか何かだろうと思い、適当に追い払おうと面倒臭気にドアを開ける。
するとそこには、金髪の少年が立っていた。
「…………」
「やっほー、隼人だよね?」
「……帰れ」
一言そう言い、ドアを閉めようとするが足を挟まれてそれは叶わなかった。
「ちょっ、隼人?!入れてよっ」
「知るか!テメェ誰だ?!まさか親父の言ってた執事とか言うんじゃねーだろうな!!」
「うん、当たり」
「いらん!」
そんなやり取りが続いたが、隣人が不審な目で覗いて来たため、獄寺は仕方なく彼を中へ入れるのだった。
「……で、テメェが親父の言ってた執事ってのは本当か?」
「うん、ホント。王子が誰かに付き従うとかってマジありえない事だから感謝してよね」
執事だろ?!というツッコミは喉まできてなんとか留まる。
「俺は執事なんていらねー。ここまで来といて悪いが、帰ってくれ」
「ヤだ」
「は?!」
「王子、隼人気に入っちゃったから〜」
はしゃいで抱きつこうとする少年を必死で剥がして立ち上がった獄寺は、とりあえず見下ろしながら嫌々尋ねた。
「おまえ、名前は」
「ベルフェゴール。ベルって呼んでいいよ」
呼ばねーよ!と言っても聞かない。
それどころか「王子でもいいよ〜」なんて言う。
執事のくせに…。
獄寺は真面目な顔をし、真剣に言った。
「とにかく、おまえみてーなふざけた執事はいらねぇ。それにまだ俺とそんなに歳も変わんねーだろ」
「まぁ歳はね………じゃあ…」
ベルは一旦立ち上がり、それからその場に膝をつき、獄寺の手をとって軽く口付けをする。
そして言った。
「私ベルフェゴールは、人生最初で最後の主人として貴方にお仕え致します。どうか、貴方の執事としてお傍においていただけないでしょうか……」
手はまだ離さずに少し見上げる。
長い前髪から、少しだけ隠されていた瞳が見えた。
「っっ………」
いきなり真面目にそう言われたものだから獄寺は驚き、同時に赤くなる。
認めたくはないが、今の一連の動作は確かに絵になっていてかっこよかった。
「………しっ…執事として使えんだろーな?!」
「え…?」
「親父が雇ったんだろうし、しょうがねーからここに置いてやる!」
「っっ隼人ぉ〜〜っ!!!!」
ベルは堪らず獄寺に抱きつく。
抵抗されようと放さない。
今更ながらすでに後悔してきた獄寺だった。
そしてその執事は、執事らしい仕事など何一つしなかった。
食事も作らない、お茶も淹れない、というか家事全般を全くやらない。
する事といえば、甘える事だけだった。
そして今に至る。
「……獄寺君?」
綱吉の声で獄寺は我に返る。
執事と初めて会った時の事を思い出していたのだ。
「とっとにかく、俺の執事はワガママ執事なんです」
「ワガママ……執事で?」
「はい。家事も一切やりません」
「それは……」
どうなのだろう。
綱吉は苦笑いをする。
己の執事ザンザスでさえ、普段の過剰なスキンシップを除けば立派な執事だ。
もちろん家事というか…身の回りの世話はちゃんとしてくれている。
家事は大体はお手伝いさんに任せているのだ。
だが獄寺は一人暮らし、家事も自分でやらねばならない。
そしてそこに執事が来たのなら、当然それは執事の仕事になる…はずである。
「獄寺君、それでもその執事を追い出さないの?」
「えぇ…親父に聞いたら、結構な組織の奴らしくて……執事専門の養育施設も経営しているボンゴレっていうところで、邪険には出来ないらしく…」
「「ボンゴレ?!」」
綱吉と山本の声がハモった。
そう、彼らの執事もそのボンゴレから来たのだ。
獄寺は「出来る事なら今すぐにでも追い出したいです!」と言い、また昼食を食べ始める。
難しいだろうなぁ…と思いながら、あれ?幸せなのって山本達だけじゃない…?と気づく綱吉だった。
→後書き