お題置き場

□私を思って(白詰草)
1ページ/1ページ

 
「フェアじゃないと思うのよ」
 
「………何がだ?」
 
腕立て伏せをしながら、了平は視線だけをルッスーリアに向けた。
 
 
 
 
笹川宅に訪れたルッスーリア。
迷わず了平の部屋へ行き、筋トレをしている恋人を眺めながらそう呟いたのだ。
 
ルッスーリアは珍しく難しい顔をして、続けた。
 
「だって、私ばっかりが了ちゃんのコト好きじゃない?」
 
「いや、俺の方が極限におまえの事を好きだぞ!」
 
「了ちゃん………って、そうじゃなくて!」
 
「それではダメなのか?」
 
腕立て伏せをやめてあぐらをかき、コテンと首を傾げる了平は脅威的な破壊力を持つ。
ただし、恋人限定だが。
 
その恋人、ルッスーリアは考える。
おそらく彼は、自分事は好きなのだろう。
だがきっと、妹の事も沢田綱吉や仲間の事も好きだと言うだろう。
果たして自分の「好き」と彼の「好き」、意味は同じなのだろうか…?
 
 
 
「了ちゃん、沢田綱吉と私、どっちが好き?」
 
ズルイ質問。
誰かと比べる事でしか安心出来ない。
 
了平は一瞬きょとんとするが、すぐに眉をしかめた。
 
「……それはわからない」
 
「えっ……?」
 
ルッスーリアが思わず声を上げる。
やはり彼の中では、自分は他の仲間と同じように思われているのだろうか……。
 
だが了平は「勘違いするな」と言って、あぐらをかいたまま腕で身体を浮かせながら近づいて来た。
 
「わからないというのは、比べようがないと言っているんだ」
 
「比べようがない…?」
 
「おまえと沢田、なんというか……場所が違うっ!」
 
「場所…?」
 
たまに思うが、彼との会話は堅苦しい学者の話を聞いているより難しい。
 
了平は腕を組み、彼なりに一生懸命考える。
そして「場所…というか……範囲…か…?」とぶつぶつ言い出した。
彼がこのような状態になって、良い答えが出たためしがない。
 
ルッスーリアは自分で考える事にした。
場所……住んでいる、という意味ではなさそうだ。
範囲というのは……物理的なものだろうか…。
 
結局わからず、直接聞いていくしかなかった。
 
 
「了ちゃん、もう少し具体的に言える?」
 
「む……」
 
了平はまたしばらく考え込むと、要領を得ないがゆっくりと話し出した。
 
「どちらが好きか、という問いがそもそもおかしいのだ。おまえはおまえ、沢田は沢田だ」
 
「えぇ……でも、何故比べられないの?」
 
「元……え〜…き…き……きじゅん?基準か、基準が違うのだ」
 
「基準…」
 
彼にしては難しい言葉を使う。
 
「確かにおまえの事も沢田の事も好きだ。だが、違う好きなのだ。例えば……」
 
そう言って了平は、2つのカップを指した。
 
「こっちのカップが“好きその1”だ。ここには沢田やタコヘッド、山本や雲雀などが入っている。そしてこっちのカップが“好きその2”だ。ここにはおまえしかいない。だから、違うカップでは比べることが出来ん。よって、おまえは誰とも比べられんのだ」
 
「了ちゃん、それって……」
 
「どういう訳か、好きだと思ってもそれは全てが同じ“好き”ではないのだ。特にルッスーリア、おまえは…なんというか………極限に好きなんだ!!」
 
最後は考えすぎてよくわからなくなったのか、叫んで終わった。
だがルッスーリアにはわかる。
つまり、彼はわかっていないだけで、ちゃんと友情と恋愛感情を区別しているのだ。
 
「……って、ん?じゃあ妹ちゃんは?」
 
彼の最愛の妹、京子。
彼女はやはり“好きその1”に入るのだろうか。
 
「京子は……“好きその3”だ!!」
 
「その3〜!?」
 
「あぁ!京子は大切な妹だ!おまえと同じくらい特別なのだ!!」
 
「………………」
 
今までだったら、きっと妹の京子が彼の中で唯一特別だっただろう。
だが今、同等のところまで自分がきている。
それが嬉しくてたまらない。
 
 
 
 
ルッスーリアはふっきれたように微笑むと、恋人に抱きついた。
慣れてきたとはいえ、やはり少し緊張する了平。
 
「じゃあ了ちゃん、私の恋人って自覚はちゃんとあるのね?」
 
「あぁ!おまえのように特別な奴の事だろう?」
 
「ふふ…そうよ」
 
 
 
 
心が繋がって、次は身体も繋がりたい
 
そんな願いはまだ早いかしら
 
 
 
それでもいつか、貴方とひとつになりたい
 
こういう感情もわかってほしい
 
 
私のワガママかもしれないわね
 
 
 
でも、嬉しかったわ
 
貴方はちゃんと、私を思ってくれていたのね
 
 
 
 
 
 
「ねぇ了ちゃん、こっちの“好きその2”のカップには、ずっとずっと私しかいない?」
 
「当たり前だ!!おまえ以外にはありえん!!」
 
「私も大好きよ!了ちゃんっ!!」
 
 
幸せいっぱいの笑みで、お互い公認の恋人に抱きつくルッスーリアなのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――
その感情の名前がわかっていないだけで、ちゃんと漠然とはわかっています。
例えが陳腐ですみません…。
2009.11.30
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ