献上小説置き場2

□誤解
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ある晴れた昼下がり、事は静かに起こった。
 
 
 
 
日曜日。
ツナは恋人であるザンザスとデートの約束をしていた。
だが彼が訪れる前に家を出る。
 
向かった先は、竹寿司だった。
 
 
 
「っらっしゃい!…って、ツナじゃねーか!」
 
店の手伝いをしていた山本が嬉しそうに笑う。
だが、次の瞬間には首を傾げて言った。
 
「あれ?今日はザンザスと出かけるんじゃなかったか?」
 
「山本……うん、まぁね。でもいいんだ」
 
「…?ま、そんならいっか。寿司おごるから食ってけよっ」
 
「ありがと」
 
物事を深く考えない男、山本武。
本人がいいといえばいいのだ。
 
 
 
数時間後。
 
「綱吉!!」
 
そんな声と共に、珍しく息を切らしたザンザスが竹寿司に入ってきた。
 
 
「…………でさ、山本」
 
ツナは一瞥すると、すぐに視線を山本へ戻す。
その態度が、ザンザスの怒りに火をつけた。
 
「テメェ…今日は迎えに行くから家で待ってろっつったろ!何でいねぇ!」
 
「…ごめん山本、迷惑かけちゃって…」
 
それからツナは、これ以上の騒ぎを避けるため竹寿司の裏口から外へ走って行く。
ザンザスは慌ててそれを追いかけたのだった。
 
 
 
嵐が去った後のような店内。
山本親子は「なんか大変そーだなー」などと揃ってのほほんとしていた。
 
 
 
 
 
「っ綱吉!!待ちやがれ!!」
 
こっちも結構全力で走っているのに、距離が縮まらない。
つまりは、向こうも死ぬ気で走っているという事。
 
 
「おい!一体どうした?!」
 
 
「“どうした”……?」
 
ツナはピタっとその足を止める。
そして座りきった目で恋人を見た。
 
 
「よくもそんな事が言えたなぁ……?っこの浮気者――っ!!節操無し――っ!!鬼畜――っ!!ドS――っ!!変態――っ!!馬鹿ぁ――っ!!」
 
 
「つ、綱吉…?」
 
一体何事かと通行人が注目する。
明らかにザンザスの方が分が悪い。
 
というか浮気者や節操無しというのがわからない。
身に覚えがないし、馬鹿というのも気に食わない。
他は否定しきれないが…。
 
 
ツナは一旦息を吐くと、まるでハイパー死ぬ気モードの時のような目をし、ゆっくり話し出した。
 
 
「…昨日、ザンザス公園にいたよね?」
 
「あ?あぁ」
 
「で、女の人と抱き合ってたよね?」
 
「は………はぁぁ??!!」
 
まさか。
 
だがツナは続ける。
 
「階段の下の所で、確かに抱き合ってたよね?」
 
「階段……」
 
そこでザンザスの疑問が全て解決された。
そして誤解を解くために、油断していたツナを突然抱き寄せた。
 
「ちょっ…!」
 
「綱吉…あれは誤解だ」
 
「何を……」
 
「っつーかテメェが言ったんだろうが、“面倒事は起こすな”って。だからあの時、階段から足を踏み外した奴が降ってきても突き飛ばせなかったんだろうが」
 
「……へ?」
 
「あれは偶然だったし、抱きとめたのも一瞬だったはずだぞ?その後はそいつも礼を言ったらすぐに去ってったし……見てなかったのか?」
 
「え……と…一瞬で逃げ帰ったから……」
 
ザンザスは大きくため息をつくと、「勘弁してくれ…」と頭を抱えた。
 
「それで怒ってたのか…」
 
「だっだって…やっぱり女の人の方がいいのかなって……」
 
「何言ってやがる」
 
本当に、いつまでたってもこの恋人は細かい事を気にして、不安気で、くだらない事にこだわる。
 
 
ザンザスは一旦ツナを放すと、そっと口付けをした。
 
「綱吉…俺はおまえに惚れたんだ。性別も年齢も立場も何もかも関係ねぇ。俺は沢田綱吉という人間を愛しているんだ」
 
「ザンザス…」
 
「その辺、いい加減わかりやがれ」
 
そしてもう一度強く抱きしめる。
今度はもちろん、抵抗などなかった。
 
 
 
「ザンザス、ごめん……でも、やっぱり妬けるよ…」
 
「テメェに妬かれるのは悪くねーがな…さすがにあの態度はキツイぞ…」
 
「アハハ、ごめん」
 
 
 
いろいろ考えるのはもうやめにしよう
 
彼が自分をこんなに愛してくれて、自分も彼をこんなに愛している
 
他に何があるのだろう
 
 
 
「デート、今からする?」
 
「ホテルでか?」
 
「っっ……いいよっ」
 
あんな態度とっちゃったし…と譲歩したツナだが、やはり彼の鬼畜・ドS・変態というものを体感してしまうのであった。
 
 
 
 
 
 
 
→後書き
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