献上小説置き場2

□貴重な貴重な体験
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数分後。
雲雀は1人でチャーハンを作っていた。
 
ディーノも手伝う気満々でいたのだが、雲雀は忘れていた。
彼のダメダメさを……。
 
卵を割ってくれと言えば殻が混ざり黄身はボールからこぼれ、フライパンに油をしくのを頼めば大量に入れすぎて浸ってしまう始末。
これでよく今まで生きてこれたと思う。
年齢が下がり、そのダメさはさらに強烈になっていた。
 
結局ディーノはおとなしくソファーに座って待っているのだった。
 
 
 
 
 
「はい、出来たよ」
 
テーブルにつき、ディーノはチャーハンを見て目を輝かせる。
 
「テヅクリ……ごはん!」
 
「……うん?」
 
よくわからないが、とりあえず頷くと、ディーノは早速食べ始めた。
そしてひたすら何かを叫んでいる。
雰囲気からしておそらく「美味しい」だとは思うのだが……ただの普通のチャーハンだ。
その辺の野菜やら具材を切って冷凍してあったご飯と炒めただけ。
 
「…美味しい?」
 
「……おい、しい………?っん!おい、しい!」
 
ホントに意味がわかっているのかと思いたくなるが、喜んでいるようなので黙ってその食べっぷりを眺める。
 
そして多めに作ったつもりだったが、あっという間に完食してしまったのだった。
 
 
 
 
 
「ありがとう、ございました!」
 
食べ終わると、お皿を流しに片そうとしたディーノ。
雲雀は慌ててそれを止めて彼のお皿を自分のと一緒に片付けた。
皿を割られてはかなわない。
実際、先程も椅子に座ろうとして自分で自分のズボンの裾を踏んづけてしまったのだから。
 
まるで介護でもしているようだ。
皿を片付けた後のテーブルには、彼がこぼしたチャーハンがボロボロと落ちていた。
 
 
それでも、なんだか可愛い。
先程からのたどたどしい日本語も、いつもよりずっと幼いその容姿も、少し高めの声も、ドジで何も出来ないところも……。
 
 
 
 
またソファーに座り、くつろぐ。
ディーノはそわそわと落ち着かない様子だった。
 
「何?どうしたの?トイレなら部屋を出て右のつき当たりだけど」
 
「ちっ違いマスっ。ただ、カゾクとかはいない、のかって…」
 
「あぁ、僕は一人暮らしだからね」
 
するとディーノは雲雀の顔を覗き込み、言った。
 
「キョーヤ、サビシクないですカ…?」
 
「……うん、全然。…何で?」
 
「ワ……オレは、1人ぼっち、サビシイ、です」
 
「貴方は群れるのが好きだからね」
 
群れなきゃ弱い、変な体質。
僕には信じられないけど。
 
 
 
「…にしても、いつ効果が切れるんだろうね」
 
長すぎる。
まさか効果が切れずこのまま……なんて事はないとは思うが、言いきれない。
 
「キョーヤ、は……オレ、ジャマ?」
 
「えっ?……いや、別に……」
 
どうしてだろう。
自分と同じくらい身長はあるのに、すごく幼く感じる。
だから強く言えないのだ。
 
「君も帰りたいだろ?こんなトコにいるより」
 
「オレ、ずっとココにいたい!キョーヤ好き!」
 
「えっ…?」
 
「キョーヤ、イイ人!オレ、キョーヤ好き!」
 
「……………そう……ありがと」
 
雲雀は苦笑しながらそう言い、相変わらず綺麗な金髪を撫でた。
そして珍しい事に、自分からいつもとは違うその身体をぎゅ〜っと抱きしめる。
 
「キョーヤ…?」
 
目を丸くするディーノ。
雲雀はなおも抱きしめ続け、一旦離したかと思うと、驚くディーノのおでこに触れるか触れないか程のキスを贈った。
 
その瞬間、ディーノを煙が包んだ。
これは見覚えのある煙。
 
 
 
 
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