献上小説置き場2
□貴重な貴重な体験
4ページ/5ページ
「…………」
タイミングが良すぎるような何というか……雲雀は黙って煙が晴れるのを見守った。
すると見慣れたディーノが飛びついてくる。
「恭弥ぁぁ〜〜っ!!」
「ちょっ、何?!」
今度は完璧包み込まれるような形で抱きしめられる。
やっぱりこっちの方が安心するが、悔しいのも事実だ。
「恭弥ぁぁぁ〜〜っ」
「ちょっと、退い………って、はっ?!何泣いてるの?!」
少し離して顔を覗き込めば、ディーノは涙を流していた。
そして泣きながら話し始める。
これがマフィアのボスとは……いや、大の大人とは到底思えない光景だ。
「いっ…いきなり煙に包まれたと思ったら、何故かパーティー会場にいて……グズッ…変なおっさんがこれは成功だとか叫んでて……」
「あぁ…」
おそらくはボヴィーノファミリーのボスだろう。
先程子供のディーノがそう言っていた気がする。
「それでいきなりバズーカ向けてきやがって……」
「貴方は10年バズーカで過去に飛ばされたんだよ。過去のディーノが撃たれたからね」
「やっぱりか!っ…どうりでなんか見た事あるようなないようなバズーカだと思った!10年バズーカに似てたのか!」
「あれ?でも、そしたら何で貴方覚えてないの?過去にバズーカに当たったんでしょ?」
「そうだな…何でだろ?さっきはバズーカ向けられたから必死で逃げて、とにかく逃げて……自分の足同士が絡まってバランス崩して、目の前にあった柱にぶつかる……と思ったらまた煙に包まれて戻ってきたんだけど……」
「「…………あ」」
2人の声が重なる。
おそらくは、同じ事を考えたのだろう。
そう、10年前の12歳のディーノは、過去に戻った瞬間に柱に頭をぶつけ、その日1日の記憶が飛んだのだ。
さらにボヴィーノファミリーのボスが、10年バズーカはまだ効果時間が安定していないから表には出せない、ここだけの話で内密にしようと言い出し、記憶の飛んだディーノには都合がいいと思い話さなかったのだ。
雲雀はため息をつく。
どっと疲れた感じだ。
「恭弥?」
「………」
雲雀は、覗き込むディーノの顔をじっと見る。
「きょ、恭弥…?」
「………貴方さ」
「ん?」
「……よく今まで死なずにこれたね…」
「はっ?!」
訳がわからず声を裏返すディーノ。
いきなり何なのだろうか。
「さて、チャーハンは食べちゃったし…また何か作らなきゃね」
「ちょっ、恭弥?!……あ、そういえばおまえ、10年前の俺に会ったんだよな?」
「まぁね」
「どうだった?日本語話せてたか?」
そして「あの頃は微妙だったんだよな〜、勉強中だったし」というディーノ。
雲雀は先程の事を思い出し、口の端を上げた。
「そうだね…可愛かったよ」
「かっ……??!!」
後ろで騒ぐディーノを無視し、台所へ向かう。
そして雲雀はまた微かに微笑んだ。
本当に、可愛かったと思う。
だが残念な事に、10年前の彼はもう自分の事は忘れてしまったのだろう。
それでもちゃんとこうして出会えた。
本人はちっとも思い出さないが。
「ほらディーノ、手伝って」
「お、おうっ」
だが、ディーノに卵を割ってくれと言えば殻が混ざり黄身はボールからこぼれ、フライパンに油をしくのを頼めば大量に入れすぎて浸ってしまった。
「貴方……本当に成長してないんだね…」
「なっ…?!」
「図体だけでかくなって…変わらずヘナチョコ」
「ちょっ、恭弥?!それはちょっと酷くね?!」
すると雲雀は涙目のディーノを見つめる。
そして言った。
「うん、今の貴方も割と可愛いよ」
「えっ?!」
そして混乱しているディーノを無理矢理台所から退場させる。
やっぱり、彼に料理なんてさせてはいけないのだ。
「恭弥?!ホントに今日はどうしたんだ?!」
「別に?機嫌がいいだけだよ」
絶対に見られないと思っていた貴方の子供時代が見れたんだからね…
雲雀は上機嫌で、先程と全く同じチャーハンを作り始めるのだった。
→後書き