献上小説置き場2

□人間こたつ
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こたつ
それは、一度入ったら出られない魔の巣窟である
 
 
 
 
 
 
「こたつぅ?」
 
スクアーロは思わず眉をしかめて聞き返した。
 
竹寿司。
山本の家である。
最初は1ヶ月に数回、そして1週間に数回、今では時間がある時にはほぼ毎日ここへ来ていた。
 
目当てはもちろん、可愛い可愛い年下の恋人。
 
 
 
 
「スクアーロ、こたつ知らねーのか?」
 
山本は意外そうに尋ねる。
こたつなんて世界の何処にでもあると思っていた。
 
「少なくとも俺の家にはなかったなぁ」
 
聞けば、テーブルに布団をかけて、中でストーブのようなものを入れて暖めるらしい。
やはり、そんなものは見た事も聞いた事もない。
 
 
「じゃあ、今日ウチでこたつ出すからさ、一緒に入ろーぜ!」
 
「あ"?あ"ぁ…」
 
なんか楽しいのか?と思うが、恋人の笑顔に何も言えなくなるへタレだった。
 
 
 
 
 
「スイッチ・オン〜〜っ」
 
嬉しそうな山本の声と共に、コンセントの刺された電源スイッチが押される。
布団の中が段々と温まっていった。
 
こたつがあるのは居間。
剛は仕事で店の方に出ていた。
 
こたつは四方あるのに、何故か2人はその4分の1に座って収まっている。
つまり、仲良く並んで密着して座っているのだ。
もちろん、その事に全く疑問など持たないのが彼らだ。
 
 
「あ"〜〜……あったけーなぁ」
 
「だろっ?!やっぱり冬はこたつなのな〜」
 
 
 
それから、あらかじめ用意してあったみかんを食べる。
甘酸っぱくて美味しいみかんだった。
 
 
「…にしても、これがこたつかぁ」
 
「こたつって、一旦入ると出らんなくなるんだよな」
 
「は?何だソレ」
 
「いやさ、あったかいから足が抜けなくなっちゃうって話」
 
冬はこたつで宿題とか全部やってたんだぜ〜、と山本は苦笑する。
スクアーロは、情けねーなぁ…と言おうとして、やめた。
 
「………………」
 
「ん?スクアーロ?どした?」
 
「いや……その………こたつって……」
 
「こたつって?」
 
 
「……恐ろしいなぁ…」
 
 
「…………は?」
 
山本は思わず拍子抜けした声を出す。
 
こたつが恐ろしい…?
 
訳がわからない。
無意識の上目使いで説明を求めると、そっぽを向かれたが話してくれた。
 
「おまえの言う通り、今足抜こうと思ったら抜けなかったぜぇ……クソッ、剣士の俺が……」
 
そんなスクアーロに微笑み、山本はピタッと寄り添った。
 
「じゃあさ、このままでいいじゃん。みかんもあるし」
 
「まぁなぁ…」
 
今日は仕事もないし、このままでもいいかもしれない。
 
 
だがその時
 
 
 
――プチッ
 
 
不吉な音がした。
 
そして……
 
「えっ?!」
 
「な"っ…」
 
足元が段々冷えてくる。
 
これはまさか………
 
 
「こ、壊れた…?」
 
スイッチはオンのまま、コンセントも刺さっている。
つまりは、原因不明。
 
今まであったぬくもりが一気になくなり、身体が震えてきた。
 
「何でだ?!さっきまで普通だったのに」
 
「変なしまい方してたんじゃねーのかぁ?」
 
「ん〜……自信ない」
 
エヘ、と頭をかく山本。
そんな顔されたら責められないじゃないか。
いや、責めるつもりなど毛頭ないのだが。
 
 
「てか寒い寒いっ」
 
「確かに、ちょっと寒ぃーぞぉ?!」
 
いくらやってもこたつは暖かくならない。
これではまるで、布団が引いてあるただのテーブルだ。
 
「スクアーロっ、寒いのな…」
 
山本はすすす…とスクアーロに擦り寄る。
その行動はもう、可愛すぎて可愛すぎてたまらなかった。
 
「武ぃ!!」
 
思わずガバッと抱きしめ返す。
すると腕の中でさらにもぞもぞされた。
 
そして…
 
「スクアーロってあったかいのなっ。こたつみてー」
 
山本は「人間こたつーっ」と言って1人で笑い出す。
 
極めつけに
 
「スクアーロがいれば何処ででも寒くないかもなっ」
 
とか言ってきた。
 
天然というのは全く恐ろしい。
こっちが照れてくる。
 
スクアーロは真っ赤になって、恋人を抱いたままこてんと倒れる。
 
「俺も、おまえがいれば寒くねーぞぉ」
 
「っスクアーロ大好き!!」
 
それを聞いてスクアーロは笑い、しかし首を振った。
 
「武、違うだろぉ」
 
教えたはずだぜ?と言う。
すると小さな小さな声が聞こえてきた。
 
 
「………愛して…る……」
 
「あ"ぁ、俺も愛してるぜぇ」
 
言い慣れない言葉だからか、今度は山本が真っ赤になる。
それからお互いに吹き出した。
 
 
 
お互い、こたつのようにあったかくて、それ以上に欠かせないもの
 
もう冬だけじゃなく、年中傍から離れられない存在になっていた
 
 
 
 
 
仕事を終えた剛が居間に入ると、壊れたこたつに足を入れてお互いくっついて眠ってしまっている可愛い息子と、息子候補がいた。
苦笑して、幸せそうな2人に布団をかけてやるのだった。
 
 
 
 
 
 
→後書き
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