献上小説置き場2

□だってやっぱり不安だから
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「クソッ……」
 
獄寺はバルコニーで1人ワインを飲み干す。
10代目の就任披露パーティーで自分も幸せなはずなのに、どうしてもあの光景が頭から離れない。
 
「……俺達、恋人同士じゃなかったのかよ…」
 
別に、付き合おうとか告白とかそんなきっかけなどない。
向こうは好きだ愛してると言いまくってくるが、こっちからはそんな事は言わない。
だけど、互いの時間が空けば一緒にいたし、身体も重ねた。
それが恋人だと思っていた。
 
「あんな女共に……」
 
今更ながら、男同士だという事に劣等感を覚える。
所詮は女性には勝てないという事なのだろうか
今までの彼の言葉は嘘なのだろうか
誰にでもあんな顔であんな台詞を言うのだろうか……
 
そう考えると、物凄く嫌な気分になった。
今更何だ。
散々彼を突き放しておいて、愛の言葉1つ返さないで。
それで、彼が他の誰かと一緒にいれば独占欲丸出しな自分がいる。
最低だ。
 
 
獄寺は夜空を見上げる。
星々が輝き、しかし段々とその光がぼやけてきた。
頬を伝うものを感じ、やっとその視界のぼやけの正体を知る。
 
嬉し泣きはあっても、こんな気分で涙を流したのは何年ぶりだろう。
 
 
 
 
「隼人…?」
 
 
「っ?!」
 
 
いつの間にか、横にベルが立っていた。
獄寺は慌てて涙を拭う。
それからキッと睨みつけた。
 
「何やってんだよ、こんなトコで」
 
「隼人こそ。どうしたの?何かあった?何で……」
 
ベルが頬に触れようとした瞬間、獄寺は勢い良くその手を払いのけた。
 
「……?隼人?」
 
「そっ…そんな声で呼ぶな、優しくするな!どうせ他の奴にも同じようにしてるくせに…っ」
 
「は?何言って……」
 
だが獄寺は聞く耳を持たず、さらに続けた。
 
「俺なんて、ワガママ聞いてくれるただの都合のいい存在だったんだろ?もう沢山だ!俺を振り回すな!俺は…………っ??!!」
 
最後まで言い終わらないうちに、獄寺は抱きしめられていた。
ベルは、抵抗されてもガッチリとその身体を抑えて離さない。
そして耳元で囁いた。
 
「隼人……それ本気で言ってんの?いくら王子でも怒るよ」
 
「っっ!!」
 
今までに聞いた事のない低く冷たい声。
彼が本気な事が伺える。
 
「隼人、俺がいつ隼人以外の奴を見た?隼人は、今までの俺の言葉やキスや全てを嘘だとでも思ってんの?」
 
「そ…れは……」
 
「それってさ……ちょっとキツいよ」
 
「っっ……」
 
せつなそうな声が耳に、そして脳内に響き渡る。
それが嘘だとは、どうしても思えなかった。
 
 
「だっておまえ、さっき女と抱き合って……」
 
「あぁ、あれ見てたんだ」
 
ベルは一旦獄寺を離すと、なるほどと考え込んだ。
声はいつものトーンに戻っていた。
そして次第に口の端を上げる。
全てが繋がったのだ。
 
「隼人は、俺があの女に抱きつかれたのを見て誤解したんだ。あ、一応言っとくけど、抱き合ってない、抱きつかれただけだし」
 
「抵抗してなかったように見えたが?」
 
「そりゃボスに言われてたからね。でも言ってきてやったから」
 
「何を?」
 
ベルはしししっと笑って、ふいに獄寺の唇に触れるだけのキスをする。
そして言った。
 
 
「王子にはもう恋人いるから、ってさ」
 
 
「え……?」
 
 
突然キスをされたのと言われた言葉に、獄寺はしばし呆然とする。
その様子を楽しむかのようにベルはまた、たった1人の恋人を抱きしめた。
今度は先程より少し力を抑えて、優しく愛おしく。
 
「ね、王子って愚民共見てる余裕なんてないんだって。見てるのは隼人だけ」
 
「何言って………バッカじゃねーか」
 
全く…と、獄寺は眉をしかめて苦笑する。
胸の嫌なつっかえが完璧に取れていた。
 
 
 
 
「あー……柄にもなく考え込んじまったな」
 
「でも隼人、あれ見て嫉妬してくれたんだ?」
 
「バッ……違ぇーからな!」
 
「しししっ、照れない照れない〜」
 
 
 
本当に、思えばコイツがこんな態度だと知ったら女共は逃げていくだろう。
いや、こんな態度も自分だけの特権なのだろうか。
ワガママで自分勝手、すぐ抱きつくし言った事も守らない。
けれど、何だか放っておけない。
気づくと視線がそちらに向いてしまう。
しばらく会えないと、寂しいとか思ってしまう。
 
 
 
パーティー会場に戻ると、ベルにフラれた女性やその周囲がまだ少し騒がしかった。
それをこっそり見て、2人は笑いながら乾杯をする。
 
沢田綱吉の10代目就任に
そして
 
2人のこれからに
 
 
 
 
 
 
→後書き
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