献上小説置き場2

□愛を育てる会えない時間
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『ごめんね了ちゃん……いきなり仕事が入っちゃって、明日会えそうにないの』
 
「そ…………そうかっ、極限に頑張れよ!」
 
 
それから2週間。
 
 
 
 
 
バレンタイン当日に会う約束をしていた2人。
だがルッスーリアに仕事が入り、会えなくなってしまった。
 
それでも駄々をこねる程、了平も子供ではない。
そして仕事をサボってまで恋人に会う程、ルッスーリアもいい加減ではなかった。
……本当は恋人を優先させたいのだが。
 
 
そして断りの電話があってから2週間が経過。
だがルッスーリアからは何の連絡も来なかった。
 
京子も、明らかに日に日に落ち込んでいく兄を見ているのは見るに耐えなかった。
あのいつも元気でいつも真っ直ぐですぐに何でも忘れる兄。
それでも何故か最近出来た恋人に関しては忘れない。
忘れないどころか、すごく楽しみにしていたのだ、バレンタインに会う事を……。
 
 
 
 
 
居間のソファーで悶々としている兄を見る京子。
何を考えているかなど問わずともわかる。
 
バレンタインから3日、了平はまだ普通だった。
そして1週間後、気を紛らわす為に筋トレを異常に行った。
さらに2週間後の現在、こうして今までにない程落ち込んでしまっているのだ。
 
 
 
 
京子がカレンダーを見てため息をついた時、玄関のチャイムが鳴った。
今日は両親が仕事と同窓会でいない為、兄妹2人だけだった。
なので京子が玄関へ行く。
 
 
「はい、どちら様ですか?」
 
ドア越しに尋ねる。
 
そして相手を確認した瞬間、すぐにドアを開けた。
次いで急いで居間へ駆ける。
 
 
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ!!」
 
「ん?どうした?きょ……………」
 
京子、と言おうとした了平は、振り向いたまま固まってしまった。
 
そこには……
 
 
 
「久しぶりね、了ちゃん」
 
 
ずっと待ち焦がれていた彼が、いた。
 
 
 
 
 
 
「……っ」
 
了平は我に返ると、途端に立ち上がって走り……階段へ向かった。
そして急いで2階の自室へと向かう。
 
ルッスーリアは驚きながらも、慌ててその後を追った。
 
 
 
「りょ、了ちゃん…?」
 
一応、閉められたドアの前で呼びかけてみる。
すると「入ってくるなっ」と拒絶された。
 
どうしたのかと青ざめていると、京子が訳有りな顔でルッスーリアを居間へ引き戻した。
 
 
 
 
 
 
「ねぇ妹ちゃん、私、何かしたかしら?確かに約束は守れなかったけれど…」
 
とりあえずソファーに向かい合って座った2人。
どうしようどうしようと、ルッスーリアはソワソワして落ち着きがない。
 
京子は少し溜めてから、話し出した。
 
 
「実はお兄ちゃん……バレンタインにチョコを作ってたの」
 
「チョコ?」
 
「うん。日本では、好きな人にチョコレートを送るっていうのが一般なの」
 
「そうなの…」
 
「それを言ったらお兄ちゃん、それじゃあルッスーリアさんにチョコ作るんだって張り切って……私ビックリしちゃった。だってお兄ちゃん、料理なんてした事ないんだよ。インスタントラーメンだって作り方わかってないし、フルーチェすら作れないの」
 
「それは……」
 
ある意味すごい。
 
「だから…」と、京子は苦笑した。
いや、思い出し笑いかもしれない。
 
「お兄ちゃん、滅多に読まない本を読んで、触った事もない調理器具用意して、台所に立ったの。それで私に手伝ってほしい、でも作るのは自分1人でやりたいんだってきかなくて……」
 
「それで?」
 
「最初なんて形にならなくて、それでもお兄ちゃん負けなくて……何回も何回も作って、やっとバレンタイン前日にいいのが出来たの」
 
「………」
 
「お兄ちゃん、そりゃあもう物凄く喜んで……ボクシング以外であんなに楽しそうなお兄ちゃん、私初めて見たよ」
 
「そう……」
 
その喜びを、自分が全て壊してしまったのだ。
 
「手作りだから、いくら冷蔵庫に入れててもそんなにもたなくて……その………」
 
取っておいたんだけど、食べられなくなって捨てちゃったの…と京子は言った。
 
 
 
ルッスーリアは拳を握り締める。
何故あの時、自分は仕事を取ってしまったのだろう。
 
以前、「仕事サボって了ちゃんと何処かへ出かけたいわぁ」と言うと、了平はこう言った。
「俺は、仕事を頑張っている姿も全部含めておまえが好きなんだ」と。
それはもしかしたら彼なりの気遣いだったのかもしれない。
それでもルッスーリアにとっては、それからの仕事は今までの何倍もやりがいのあるものへと変わった。
 
そんなのは言い訳だとわかっている。
それでも、仕事も捨てられない。
だからそちらを優先した。
仕事を放り出して会いに行っても、意味はないと思ったから。
 
 
 
 
「了ちゃん……」
 
ルッスーリアは立ち上がる。
そして玄関へ向かった。
 
「ルッスーリアさん…?」
 
京子は気になって後を追ってみると、先程彼が玄関に置いていたものが目に入った。
あの時は驚いてそれが何だか気を回す余裕はなかったが、今見てみるとそれは一瞬で何もかもがわかるものだった。
 
ルッスーリアはそれを拾い上げると、京子にお礼を言い、ゆっくりと階段を上っていったのだった。
 
 
 
 
誰もいなくなった居間の天井を見上げる京子。
視線の先には、兄の部屋。
 
「頑張って、2人共っ」
 
彼女は2人の1番の理解者であり、1番の応援者だった。
 
 
 
 
 
 
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