献上小説置き場2

□素直になるのが幸せへの近道なんです
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沢田綱吉。
沢田財閥の跡取りであり、つまりはお坊ちゃまであるが、当の本人はそんな自覚はあまりなく、中身はただただ平凡に過ごしたいと願う普通の男子中学生だった。
 
 
だがそんな平凡な日々はどうやら訪れそうにない。
何故なら、父親が執事を雇ったのだ。
名をザンザス。
表向きは完璧な執事だが、実は綱吉の前でだけは素に戻るのだ。
しかも隙があれば襲ってくる。
最近では貞操を守るのに必死だ。
そしてそれが日常になっているところがまた怖い。
 
それでも最近、どういう訳か彼の事が気になって……。
嫌いではない。
だがそう易々と貞操を失う訳にはいかない。
どうしていいか、わからないのだ。
 
 
 
 
 
 
「……………」
 
「ツナ?どした?」
 
放課後。
教室でボーっとしていると、山本が声をかけてきた。
彼も執事を持つお坊ちゃまだ。
 
「山本……ううん、何でも…」
 
「んな顔してねーって。……あの執事さんと何かあったのか?」
 
「う……」
 
さすが山本、鋭い。
だが何と説明すればいいのか。
彼も執事とは仲が良いらしいが、親友という雰囲気だった。
自分は毎日執事に襲われている、と言う訳にもいくまい。
だが、他に相談する相手もいない。
 
綱吉は山本の笑顔に後を押され、とりあえず遠まわしに尋ねる事にした。
 
「山本は…執事のスクアーロさんとは仲良いんだよね?」
 
「ん?あぁ!大好きなのな!」
 
さらっと大好き発言。
しかしそれも友達的感情故か。
 
「友達だもんね……」
 
 
「でも最近、恋人になったのなっ」
 
 
「……………は?」
 
今、山本は何と言った?
 
綱吉は確認のため、繰り返した。
 
「恋人…?」
 
「ん?おうっ」
 
それから山本は不安そうに「やっぱおかしいか?」と言う。
という事は、そういう事なのだろう。
 
 
「聞くけど……キッ……キスとか、してるの…?」
 
「まぁな!おはようのチューとか、おやすみのチューとか、行ってきますのチューとか」
 
少し照れながらも嬉しそうに笑う山本。
そしてハッとして、「そっか!」と叫んだ。
 
「もしかして、ツナも執事さんと恋人なのか?」
 
「こっ……恋人では…ないよ…」
 
「でもあの執事さん、ツナの事大好きだよなー」
 
「えっ?!」
 
山本がザンザスに会ったのは二度だけ。
一度目は山本の執事を見にザンザスと行った時、二度目は急ぎの用があってザンザスが学校まで綱吉を迎えに来た時だ。
それだけでわかってしまったのだろうか…?
 
そんな綱吉の心の中を察したかのように、山本は言った。
 
「だってさ、一瞬でわかったぜ?なんつーか……大好きオーラが出てる、みたいな?」
 
「だ…大好きオーラ…?」
 
初めて聞いた。
 
「ツナだって、執事さん大好きだろ?」
 
「俺が?!」
 
「ツナからも大好きオーラが執事さんに向かって飛んでるぜ?」
 
「う、嘘?!」
 
「ホントホント」
 
「だってザンザスなんて、すっごい猫被りだし、すぐセクハラするし、ドSだし…っ」
 
言ってから綱吉はハッとする。
さすがにセクハラされているのは恥ずかしい。
 
だが山本は気にもとめない風だった。
それどころか嬉しそうだ。
 
「だったらツナさ、何で追い出さないんだ?」
 
「え?だって…」
 
執事の仕事は完璧だし、沢田家に代々仕えている訳だからそう簡単に辞めさせる事も関係が崩れそうで難しいだろう。
 
「本気で嫌だったら追い出してると思うぜ?」
 
「………」
 
確かに。
追い出さない理由は考えるが、追い出そうと思った事はなかった。
 
「きっとさ、意地になっちゃってるだけなんじゃね?素直になってみればいいと俺は思うのなっ」
 
それで今幸せだし?と山本は苦笑した。
 
 
綱吉は己の執事を思い返す。
確かに完璧な猫被りで見事に裏切られたし、いきなりキスするし、セクハラは止まないし、傲慢だしドSだし強引だし俺様だし自信過剰だし、執事のくせに全然言う事聞かないけど、基本は優しいみたいだし、強いし頭いいし何でも出来るし、見た目だけで言えばカッコイイ部類に入るだろうし……。
 
 
考え込んでしまったツナを山本が覗き込む。
 
「…ツナ?」
 
「山本………ありがとう!やってみるよ!」
 
「おうっ!頑張れよ!」
 
いきなり教科書や筆記用具を鞄に詰め込み出した綱吉。
もちろん、帰るためだ。
獄寺の「どうしたんですか10代目ぇ?!」という声も聞かず、おそらくは今までにないくらい速く走って帰るのだった。
 
 
 
 
 
 
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