献上小説置き場2

□些細なすれ違い
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それは本当に、些細な事だった。
 
 
 
 
その日は、いつものように言い合いをしていた。
 
「だーかーらーっ、俺は絶対ぇ反対だからな!!」
 
「え〜?隼人ワガママ〜」
 
「どっちが!」
 
獄寺のアパートに居候しているベルが、自分も並盛中に転入したいと言い出したのだ。
もちろんベルは中学生な歳ではない。
だが顔もよくわからないし、なんとか騙せるだろうから一緒に登校したいと言うのだ。
年齢詐称はどうにかなるのだろう。
 
それに獄寺は猛反対。
当たり前だ。
 
それで喧嘩になっているのだ。
 
 
「だってその方がずっと隼人といられんじゃん」
 
「仕事はどーすんだ!」
 
「それは大体夜だし、授業中は寝てりゃあ問題ねーじゃん」
 
別に卒業とか興味ねーし、とベルは笑う。
それを言えば獄寺も同じだが。
 
 
 
「とにかく!俺は反対だ!どうしてもって言うならここを出てけ。もちろん他で会っても無視するからな」
 
「………………」
 
不満そうな顔全開のベルを放って、獄寺は夕食の支度を始めるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
「はぁ〜……」
 
日本にあるヴァリアー邸。
ベルはソファーの背もたれに顎を乗せてため息をついていた。
 
 
「あら、ベルちゃん?ため息なんて珍しいわねぇ」
 
「…オカマ」
 
ルッスーリアが、ピンクのフリフリエプロンという強烈な格好でやってきた。
正直、今1番見たくない奴だ。
 
ベルは不機嫌丸出しで「別に」と言った。
 
「別にって…まぁどうせ獄ちゃんと何かあったんでしょうけど……また貴方のワガママ?」
 
「うっせー。俺は隼人となるべく一緒にいたいだけなのに……」
 
本当にヘコんでいるらしいベルに、ルッスーリアは向かいのソファーに座る。
 
「私で良ければ、相談に乗りましょうか?」
 
「……いいけど………そのムカつくエプロンは脱げ」
 
「これ…?!」
 
軽くショックを受けるルッスーリアだった。
 
 
 
 
 
 
 
10分後。
 
「……で、喧嘩しちゃったって訳ね」
 
「喧嘩って程でもねーけど…」
 
結局は、知り合いで相談出来る奴といえば彼しかいないのだ。
ベルは大体の事情を全て話した。
 
ルッスーリアは自分で淹れた紅茶を飲むと、カップを戻す。
一見楽しんでいるようだが、その顔は母親のようでもあった。
 
「獄ちゃんも…素直じゃないのねー」
 
「ホントだよ。今時ツンデレはもう古いっつーんに………まぁそこが可愛いんだけど」
 
 
そう…本当に、彼は素直じゃない。
好きだと言った時も、「おまえなんか嫌いだ!」と返してきた。
抱いている時も、いつまでも意地を張る。
彼の作った料理を美味しいと言った時でさえ、「こんなん誰でも作れる」とそっぽを向いた。
 
でも、だからこそ愛しい。
 
 
 
ルッスーリアは「のろけちゃってぇ〜」と苦笑する。
だがベルはふと沈んだ表情になった。
 
「隼人…俺の事ホントに好きなのかな…」
 
「ちょ、ベルちゃん何言ってるの?」
 
焦るルッスーリア。
だって、いつも俺様王子様ワガママ最高なベルが弱音をはいているのだ。
これは珍しいどころじゃない。
 
「だって告白も俺からだったし、隼人はツンデレだけど優しいから居候させてくれてるだけかもしれないし…」
 
「で、でもねベルちゃん、いくらなんでも好きでもない人と一緒に住むはずないわよ…」
 
「学校だって、俺おとなしくするっつってるのに隼人は絶対ダメだって言うし…」
 
「それは…」
 
「学校でくらい俺とは会いたくないって事?」
 
「あ、あの…ベルちゃん…?」
 
「でも…せめてアパートは追い出されたくないし…」
 
「ベルちゃ〜ん…?」
 
ルッスーリアの呼ぶ声も聞こえないらしく、ベルは肩を落として去っていくのだった。
 
 
 
 
 
 
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