献上小説置き場2

□些細なすれ違い
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午後9時。
 
「……遅い」
 
獄寺は冷めきった夕飯を前に眉をひそめる。
まさか今朝の喧嘩が原因か?と思うが、あれくらいは普段からしている。
だがあいつは、そんな事は何とも思わないだろう。
そういう奴だ。
 
 
 
「た…ただいま…」
 
「っ……ベル」
 
恐る恐る、ベルが帰って来た。
だが明らかにいつもと違う。
 
「…夕飯、まだか?」
 
「うん」
 
「じゃあ温めるからちょっと待ってろ」
 
「……うん」
 
電子レンジの前に立ちながら、獄寺はちらりとテーブルの方を見る。
…おかしい。
落ち込んでいる…のか……?
だが何が原因で?
今朝の喧嘩くらいでこんなに沈む奴じゃない。
だが他に原因が思いつかない。
もしかして仕事の方で何かあったのだろうか…。
 
 
温めた夕飯を一緒に食べ始める。
 
「……隼人」
 
「あ?」
 
ハンバーグを口に運びかけ、獄寺は箸を戻した。
 
「俺、もう転入するなんて言わないからさ…ここにいていい…よね…?」
 
「……………は?」
 
思わずそんな返事しか出来なかった。
だって、他にどう反応したらいいかわからない。
 
「おまえ…どうしたんだよ…?まさか今朝の事気にして…?」
 
「だって、俺は少しでも隼人と一緒にいたいのに…あんなに反対するなんて、隼人、ホントは学校でくらいは俺から離れたいんでしょ?」
 
「お、おい…?」
 
「ずっとずっと考えてたんだよ……あのモドキとか野球バカみたいに隼人と一緒に学校行けたらなって…」
 
「ずっと?」
 
獄寺は目を見開く。
てっきり、あのワガママはいつものようにその場で思いついたものだと思っていたからだ。
という事は何だ、自分はずっとずっと悩んだ上で言われた事をあっさり却下してしまったという事か…?
それなら、落ち込むのもわからなくはない。
 
 
それからは無言の夕食になった。
獄寺はあえて口を開かなかった。
それは弁解出来ないからではない。
今でない方がいいと思ったからだ。
 
 
 
そして夕食を終えてベルがソファーでボーっとしていた時。
頭に優しい感触がした。
 
「………?」
 
不思議に思って見上げれば、優しい笑顔が見えた。
 
「……隼人…?」
 
「…バカ」
 
「え…?」
 
立ち上がろうとすれば、その前に後ろから腕を回された。
 
 
「……1回しか…言わないからな…」
 
「え…?」
 
 
「お…俺は……一応、おまえの事…好き……なんだからな…っ」
 
 
「……………」
 
 
ベルはポカンと口を開き、次の瞬間獄寺に抱きつき返していた。
 
「っっ隼人ぉぉぉ〜〜っ!!」
 
「なっ?!」
 
「王子もっ!隼人の事大好きぃ〜〜っ!!」
 
「おっ、俺は大好きとまでは言ってねーぞ?!」
 
「でも隼人が好きって……!!」
 
いきなりテンションが高くなったベルにわたわたしながらも、獄寺は苦笑するだけでいつものように抵抗しない。
それどころか……
 
 
「今日は、一緒に寝るか?」
 
「……隼人…それ、意味わかってる?」
 
「わ、わかってなきゃ言わねーよ!」
 
顔を背けて赤くなる獄寺に、ベルは満面の笑みで頷くのだった。
 
 
 
 
 
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