献上小説置き場2

□信じる事で変わるもの
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次の日。
ボンゴレ本部のボスの部屋には、昨日とは違う人物が訪ねていた。
 
 
「やっぱり来たね……フラン」
 
「やっぱり?」
 
「あ、いやっ、最近元気なさそうだったからさ」
 
「……………」
 
そう、訪ねていたのはフランだった。
 
 
「今日は?またジル?」
 
「……はいー、そうですー。なんか、今度の日曜にデ…デートとか行こうって言い出して……」
 
「行けばいいじゃん」
 
すると、普段無表情なフランが少しだけむくれた表情をする。
これもツナを慕っている証拠だ。
 
「簡単に言わないで下さいよー、ミーはどうしたらいいかわからないんですー」
 
「行きたくないの?」
 
「行きたいですよそりゃー。でもぉ…」
 
するとツナは「わかってるよ」と優しく言った。
 
「怖いんだよね?誰かに心を許すのが」
 
「………」
 
ツナは、フランの過去を少しだけ知っていた。
 
 
彼は幼少時に親に捨てられて孤児となった。
それはもの心ついた後だったから本人の記憶にもしっかり刻まれている。
愛していたし、愛されていると思っていた親に裏切られた過去。
その時悟った、誰にも……たとえ肉親にさえも心を許してはいけないと。
愛しては…いけないと。
愛したらそれだけ裏切られた時に傷つく。
だが、感情を殺してしまえば傷つく事もない。
 
それからは生きる為にいろいろな者の下についた。
その中でさらに、ポーカーフェイスは定着していった。
マフィアの世界ではこの方が都合が良かったし、楽だった。
 
だが………ある日、事件が起きた。
ミルフィオーレとの戦いの後、ベルの兄だと名乗るジルという男に突然告白されたのだ。
「愛している、俺と付き合え」と。
その時はもちろん断った。
愛など信じていなかったし、付き合う…つまりは恋人同士になるのだろうが、それは疲れるしめんどくさいと思った。
だがジルは諦めなかった。
しつこくしつこくつきまとい、ついにフランは付き合う事を承諾したのだ。
 
 
それから、フランはジルの好意を素直に受け止められず、どうしていいかわからなかった。
泣く事など忘れた。
怒る事など忘れた。
笑う事など……忘れた。
 
 
 
ツナは用意した紅茶を一口飲むと苦笑する。
彼の過去は、平和な中で育った自分には想像も出来ない過去だ。
 
 
「俺の時くらいには気を許してもいいのに」
 
「ボスはなんか…違うんですよー」
 
「違う?」
 
「なんか……みんな言ってますけど、癒し系みたいな?だから相談したんですー」
 
「ありがと。でも、ちょっとくらい素直にならないと、ジルも不安がるよ?」
 
「………もう、ダメかもしれませんー」
 
「ダメ?」
 
フランはまた無表情になり「はいー」と答えた。
 
「ダメそうです…多分嫌われたと思いますよー」
 
「ジルに?でもジルってフラン大好きじゃん。ちょっと不安なだけだよ、きっと」
 
だがフランは首を横に振る。
 
「ミーが怒らせちゃったんですー。デートがめんどくさいとか言ってー」
 
「行きたいんでしょ?心許さないまでも、いつも通りでいいから行ってくれば?」
 
「それがダメなんですよー。最近あの人といると、どうにも無表情を保っているのが難しいんですー」
 
「それは……」
 
良い事だろう、普通は。
 
 
「フランは、ジルが好きだから裏切られたくないんだよね?」
 
「……………」
 
「でもそれってさ、ジルを信じてない事になっちゃうよ?」
 
「……信じる事はやめました」
 
「好きだから……怖いんだよね」
 
「……はい」
 
ツナは紅茶に角砂糖を1つ入れると、それをかき混ぜて飲んだ。
 
「俺はさ、ジルは本気でフランを好きだと思うよ?コレ、俺の超直感」
 
「ボス…」
 
「俺の事も信じられないかもしれないけど、ボンゴレの超直感ってスゴイんだよ?」
 
「知ってますよー」
 
「……だからさ、ちょっと信じてみない?愛されたいのなら、まずは愛さなくちゃ」
 
「でもぉ……」
 
「怖いだろうけど……大丈夫、フランはもう1人じゃないんだから」
 
「………わかりました、やってみます」
 
「頑張って、フラン!」
 
少し冷めた紅茶を一気に飲み干すと、フランは一礼して部屋を後にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
「もういいよ、ジル」
 
「…………」
 
ガチャ、と音がしてクローゼットの扉が開く。
なんとそこから、ジルが出てきた。
 
実はツナの作戦は、今日フランが自分に相談に来るだろうと考えてジルを忍ばせておいたのだ。
そして彼の本音を聞いてもらおうというのだ。
これはフランには悪いが、こうでもしなければいつまでたっても発展しない。
弟のような存在のフランが日に日に元気がなくなっていくのは、ツナも見ていて辛かった。
 
 
 
「どうだった?ジル」
 
「……うん…」
 
そう言うジルの声は震え、見れば身体全体も小さく震えていた。
 
「…ジル?」
 
「…………ヤッベ、嬉しくて震えてる…この俺が…」
 
ツナはそれを聞いて「そっか」と満足そうに微笑む。
 
「日曜、楽しんできてね」
 
「せっかく無理して休みもらったんだしなっ」
 
頷き、ジルはしししっと笑ってそっと目に溜まった何かを拭い取るのだった。
 
 
 
 
 
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