献上小説置き場2

□昔の敵は未来の恋人
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「ここ何処だ?なんか俺好みな部屋だなー」
 
「当たり前だぁ。おまえの部屋だからなぁ」
 
「え?」
 
首を傾げる山本。
スクアーロはというと、懐かしい山本の姿に理性も限界だった。
 
「武ぃっ!」
 
思わずがばっと抱きつく。
 
「っ!!??」
 
もちろん、突然抱きつかれた山本はただただ驚くばかりだった。
 
「あ"〜〜っ懐かしいぜぇ!」
 
「あ…あの…?」
 
俺達、つい最近まで敵同士だったよな?と記憶を辿る。
うん、間違いない。
 
スクアーロは我に返ると、慌てて山本を解放した。
 
「すまねぇなぁ。つい……」
 
「えと…スクアーロ……だよな?」
 
そこでスクアーロは違和感に気づく。
もしかして……
 
「今から10年前っつーと……リング戦後…割とすぐか?」
 
「リング戦?この前の戦いか?」
 
「………………すまねぇ」
 
素直に謝るスクアーロ。
つまり彼は、自分がまだ敵だと思っている…というかついこの間戦ったばかりの相手なのだ。
そんな奴に突然抱きつかれたら…そりゃあ驚きもするだろう。
しかも彼は、ここが10年後であるとわかっていない様子。
 
 
「……って、ん"?」
 
もうとっくに5分たっていないか?
10年バズーカの故障かもしれない。
 
とりあえずスクアーロは、ここが10年後であり、自分はもう敵ではない事を伝えた。
 
 
「へ〜……だから獄寺もスクアーロもちょっと違ったのか〜」
 
「10年後におまえは……あ、いや、何でもねぇ」
 
言いかけて、スクアーロは台詞を切った。
未来の事を教えるのは良くないと聞いた。
それを知った事で未来が変わってしまう可能性があるからだ。
もちろん、自分達が付き合う事になるなど、言ってはならない。
 
だが山本は気になったらしく、しつこく「何だ?」と聞いてくる。
あんまりしつこいのと彼の可愛さに負け、スクアーロは観念した。
 
「10年後のこの世界では……俺はおまえの剣の相手もたまにするんだぜぇ」
 
このくらいなら大丈夫だろう。
 
「剣の!?スゴイのな!あ〜〜っ、早くまたスクアーロと戦いて〜!」
 
そう言って無邪気な笑顔を向ける山本に……スクアーロは真っ赤になった自分の顔を手で隠して必死に抱きしめたいのを堪えていた。
ヤバイ、可愛すぎる。
だが今の彼が知る自分は、ただ剣が強いだけの敵だろう。
リング戦では暴言も吐いたし容赦なく切りかかった。
睨みつけた数は知れないが、笑いかけた記憶はない。
 
精一杯譲歩してスクアーロは山本の頭を優しく撫でると、優しく笑いかけた。
 
「戻ったら、10年前の俺によろしくなぁ」
 
「おうっ」
 
スクアーロは10年前を思い返す。
リング戦後…いや、雨戦後にはすでに彼を気にかけていた。
当然だ、自分よりずっと年下の、しかも剣術を習いたてのガキに負けたのだ。
だがだんだん、その気になる気持ちが変わってきた。
何処へ行っても何をしていても、山本武の事が頭から離れなくなってしまったのだ。
修行も集中出来ない程に。
何故だと疑問に思い、その答えに辿り着くのにそう時間は……いや、かかった。
周囲から見た時間的には短かったかもしれないが、自分の中では長かった。
あんなに悩んだのは先にも後にもきっとその時だろう。
 
 
 
「スクアーロ?」
 
考え込んでいたスクアーロは、目の前に山本の顔があり目を見開く。
あんまり黙り込んでいたから覗き込まれたのだ。
 
「いっ…いきなり可愛い顔を近づけるなぁ!」
 
「可愛い?」
 
「いやっ……」
 
もはやグダグダである。
かなり情けない32歳だ。
 
そんなスクアーロの顔を見て、山本は無邪気にニカッと笑い、言った。
 
「スクアーロ、ちょっと老けたけど可愛いのなっ」
 
「ふっ……」
 
喜ぶべきか悲しむべきか、迷う発言だ。
それでも、その笑顔にこちらもつい顔が緩む。
 
そしてもう一度その頭を撫でようとしたその時。
煙が立ち込めた。
 
 
 
 
「…………」
 
煙の中から、いつもの恋人が現れる。
 
「…あれ?スクアーロ?」
 
「戻ったのかぁ」
 
「みたいだなっ」
 
それから何故か、山本は悔しそうに口を尖らせる。
大人になってもこんな表情をするとまだ子供っぽくて可愛いなんて、口に出しては言わないが。
 
「……今度からパスポートは常に持っとくのな」
 
「は?」
 
意味不明な発言をして、ふてくされたみたいに座っていたソファーに横になる山本だった。
 
 
 
 
 
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