献上小説置き場3

□完全無欠最強無敵
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「………………」
 
お約束すぎてため息が出る。
 
部屋の周りを先程と同じような黒スーツの男達が囲み、正面にはおそらくボスの男が。
その足元で人質である山本が手足を縛られて転がされている。
 
 
「よく来たな。しかし山本剛ではないな?誰だ貴様は」
 
「名乗る必要はねぇ」
 
「ふっ…まぁいいだろう。ただ者ではなさそうだが、この人数に人質、貴様に勝ち目はない。素直にこちらの要求を呑めば良かったものを」
 
「剛はテメーらの脅しに屈するような弱ぇ奴じゃねー」
 
「脅し……?」
 
山本が呟く。
それにはすぐ傍にいた組のボスが答えた。
 
「言ってなかったかな。我々が君を人質にとったのは、山本剛に竹寿司を閉店してもらう為なのだよ」
 
「そんな……」
 
「まぁ結果、人質も助けられず寿司屋も閉店だがな」
 
「え…?」
 
「先程、私の部下が数人、竹寿司へ向かった。今頃はアイツもビビッて店をたたむ支度をしているだろうよ」
 
そこで山本とスクアーロは「数人…」と繰り返す。
 
 
「う"お"お"ぉい、竹寿司に何人送り込んだってぇ?」
 
「あんな毎日寿司だけを握っているジジイなど私の部下ならば1人で十分なのだが、念のため8人行かせた。銃で脅されてみろ、これに屈しない人間はいない!」
 
そして組のボスは誇らしく高笑いをした。
だが同時に、スクアーロも笑う。
 
「何がおかしい!?」
 
「いや、テメーの浅はかさに思わずなぁ…」
 
「ハッ、負け惜しみを…。この状況を忘れてはいないかね?」
 
周囲を囲む何十人という男が銃を構える。
スクアーロが剣を構えると、ボスはさらに声を張り上げた。
 
「おっと、こちらには人質がいるのを忘れてもらっては困る」
 
「………………」
 
スクアーロが刀を下ろして黙る。
組のボスはそれに気をよくした。
 
だが次の瞬間、スクアーロは呆れたように言った。
 
 
「いつまでそうしてるつもりだぁ?武ぃ」
 
バッと人質を見ると、なんと先程までとは打って変わって彼は笑っていた。
 
「ん、もういいのか?」
 
「さっさとしろぉ」
 
スクアーロがそう言ってからわずか2秒。
その間に山本は自力で縄を解いて勢い良く飛び上がり、その瞬間に投げられた刀を受け取った。
 
 
「「「「………………」」」」
 
組の者達は呆然とし、今何が起こったのかを頭の中で整理しようとしていた。
 
 
「初めて役に立ったなー、スクアーロ直伝の縄抜け!」
 
「上出来だぞぉ」
 
実は山本は逃げようと思えばいつでも逃げられたのだ。
だが縄を抜けても周りには銃を持った男達がいる。
さすがに刀がなくてはどうしようもない。
そう、逆を言えば、刀さえあればいつでも逃げられたのだ。
 
 
 
「うっし、これで正々堂々戦えるな!」
 
「まぁ、人数的にすでに正々堂々ではないがなぁ」
 
背中を合わせて談笑する2人。
 
我に返った組のボスは、慌てて「構わん、殺せ!」と叫んだ。
数え切れない程の銃弾が飛んでくるが、剣の使い手である2人にしてみれば銃など止まって見える。
次々と弾丸を跳ね返していった。
 
もちろん、弾には限界があるが刀にはない。
まさかそこまで銃を使うと思っていなかった一行。
弾切れはすぐにやってきた。
 
 
「……くそっ………な、何なんだおまえらは!銃弾を剣で跳ね返すなんて普通じゃないっ!」
 
慌てた組のボスに指を差され、スクアーロと山本は互いを見合う。
それからニッと笑い合い、同時に蹴り出して言った。
 
 
「「俺達が、完全無欠最強無敵の師弟だからっ!!」」
 
 
言い終わる頃には、周りを囲んでいた男達は1人残らず床に倒れていた。
残るは震えながら銃を構えるボスのみ。
 
「ひっ………だ、だが山本剛の方は今頃……」
 
「こっちと変わんねーだろぉなぁ」
 
「へ…?」
 
スクアーロの視線に、山本も頷く。
 
「だって親父、俺の最初の先生だぜ?」
 
「なっ……!?」
 
「毎日寿司を握ってるだけのジジイだぁ?アイツはテメェらなんかが束になってかかっても敵わないだろうぜぇ」
 
それをたった8人送り込んだだけでいい気になるなんて…とため息をつくスクアーロ。
剛の息子である山本も、本当に全く心配していない様子だ。
 
「そんな、まさか……」
 
もはや銃を構える手すら下ろしてしまった男は、よろよろと床にへたり込む。
 
 
 
「帰るかぁ」
 
スクアーロの声に、男は過剰反応をする。
いつ切られるのかとビクビクしているのだ。
 
「……もう俺らに関わるなぁ。そうすりゃあ命までは取らねぇ」
 
「っ……!」
 
スクアーロの言葉に男は顔を上げる。
周りに倒れている男達も、実は全員気を失っているだけ。
全て峰打ちだったのだ。
 
もちろん、男はコクコクと頷く。
ここまでの力の差を見せつけられて、また関わるなんてこっちから願い下げだ。
プライドも何もない、見逃してくれるならそれだけでいい。
 
 
 
「じゃ、帰ろっか、スクアーロ」
 
「あ"ぁ」
 
そして2人は地下を出て、驚く従業員の間をのんびりと通り過ぎて去って行くのだった。
 
 
 
 
 
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