献上小説置き場3

□真実の姫
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「え〜っ!?ヤだヤだヤだぁ!」
 
依頼人の娘のパーティー当日。
彼女は父親に向かって叫んでいた。
 
「お父様のバカッ!どうして彼がもう護衛につかないのよっ!」
 
「だから、おまえが狙われる心配がなくなったからで…」
 
「だってお父様、敵を倒すのに2ヶ月はかかるだろうって言ってたじゃないっ!」
 
「それが……彼が頑張ってくれたようで…」
 
ムスーっと娘がむくれたところで、ベルがやって来た。
 
「もう狙われる心配はねーってよ。良かったじゃねーか」
 
彼女はベルを睨みつける。
 
「あなた……私は敵は倒さなくてただ護衛だけしてくれればいいって言ったじゃないっ!」
 
「んなめんどくせー事してられっかよ」
 
「だってっ………ねぇ、また会いに来てくれる?」
 
「は?」
 
さすがに彼女の父親も驚いたらしく、慌てて「おいっ、どういう事だ!?」と娘に迫る。
 
「お父様は黙ってて。私、ベルと婚約するわ」
 
「おまえ…相手はマフィア…しかも暗殺部隊だぞ?」
 
「構わないわ。むしろ素敵じゃない。ねぇ?ベル」
 
そう言いながら、娘は自慢の顔と身体でベルに近寄る。
 
「……………」
 
鼻を突く強い香水の匂いと、耳障りなベタベタした声。
男なら喜びそうな豊満な胸にも何も感じず、むしろ絡みつく腕に気分が悪くなる。
 
そして娘がベルに口付けようと顔を近づけた瞬間、その鼻先に尖った物が突きつけられた。
 
「っ……!」
 
それがベルの取り出したナイフだとわかったのは、数秒たってから。
 
「………ふざけんなよクソ女。誰が婚約するって?テメェ鏡でもっかい自分の姿見てみやがれ」
 
まぁ内面までは鏡に映んないがな、とベルは口の端を上げる。
それに娘は逆上、バッとベルから離れると、一気にまくし立てた。
 
「わっ…私のどこが気に入らないっていうの!?お金はあるし美人でスタイルだっていい、誰にも負けない自信があるわ!そんな私が婚約してあげようっていうのよ!?」
 
ベルはあからさまにため息をつくと、ナイフをしまう。
こんな奴の為に使うのは勿体ない。
 
「言っとくけど俺、もう恋人いるし」
 
「なっ……誰よ!?ここに連れて来なさいよ!どっちがベルの恋人に相応しいか今にわかるわ!!」
 
「あぁ、わかるだろうな。テメェなんぞがアイツに勝てる訳がねーって」
 
「何ですって!?」
 
「アイツは王子な俺にピッタリな最高の姫なんだよ」
 
しししっと笑うと、ベルは未だ騒ぐ娘を残し、パーティー会場をあとにするのだった。
 
 
 
 
 
 
 
ベルが女の護衛……しかも指名されて。
 
獄寺は部屋のソファーで考える。
 
護衛の女は10代後半の若く綺麗な女。
お城に住む、正真正銘のお姫様という訳だ。
そんな女がベルを気に入って指名した……。
 
ベル本人からは、長期任務としか聞いていない。
それは言う必要がなかったからなのか、言いたくなかったからなのか……。
 
 
「ダメだ、考えるな」
 
そうだ、仕事なんだから。
ただの護衛なんだから。
何かあるはずがない。
何もないはず。
何も…………
 
 
 
その時、ドアの開く音がした。
鍵は閉めた。
入ってくるとすれば、彼しかいない……。
 
 
「っ!!」
 
獄寺は玄関へと急ぐ。
 
だが、ベルが言っていたのは確か2ヶ月。
まだ1ヶ月と少ししかたっていない。
それでも鍵を持っているのは彼以外にいない。
 
玄関へ駆け寄ると、そこには……
 
 
 
「あれ?隼人、起きてたんだ……って、今何時だろ」
 
 
苦笑するベルがいた。
 
 
 
「テメェッ!どのツラ下げて…………え?」
 
怒鳴り散らそうとした獄寺だが、ベルの目の前まで来たところで彼の身体がこちらに傾いてきた。
 
「……ごめ…隼人………」
 
「…ベ……ル……?」
 
抱きとめたベルの身体は、驚く程熱かった。
 
 
 
 
 
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