献上小説置き場3

□家族
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12月31日、大晦日。
ここ竹寿司では、毎年恒例大掃除が行われていた。
 
店は休みにして、家中の掃除をする。
結構な大仕事だ。
 
だが今年はそんな心配もなさそうである。
何故なら………
 
 
「よろしくな、スクアーロ!」
 
「よろしく頼むぞースク坊!」
 
強力な助っ人がいるからだ。
 
 
「お"……お"ぉ………」
 
曖昧に頷くスクアーロだった。
 
 
 
 
遡る事3日前。
 
スクアーロは愛しい恋人からのメールに顔をほころばせていた。
そこには『大晦日、朝からウチに来れねぇ?』とあった。
もちろんそのつもりだったので、意気揚々と朝っぱらから竹寿司へと足を運んだ。
 
そして彼は、大変な竹寿司の大掃除の強力な助っ人になったのだった。
 
 
 
 
「って、どういう事だぁ!?」
 
何故自分は三角巾を被り、ハタキを持っている。
 
「ほら親父、スクアーロ怒ってるって」
 
山本は少しバツの悪そうな顔をするが、彼の父親である剛は笑って言った。
 
「だってよぉ、大掃除するなんて言ったら来ねーかもしれねーじゃねぇか」
 
つまり、何も言わずにただスクアーロを連れてこいと行った張本人は剛だったのだ。
だがそこはスクアーロ、黙ってはいない。
 
「剛ぃ!俺は大掃除ってやつがあっても武の頼みなら来てたぜぇ!」
 
ここだけは譲れない。
 
剛は軽く「そっかそっかぁ、愛されてんなー俺の息子は!」と言い、食器の整理に取り掛かった。
 
 
この親子は本当によく似ているなと、スクアーロはつくづく思う。
自分達の交際を知らせた時も「そうか、俺ぁ応援するぞ!」と笑顔で言ってのけた。
普通、驚いて反対するだろう。
年の差はあるし、なにより男同士だし。
 
この親子、とにかくいろいろな事がアバウトなのだ。
何でも感覚で捉え、基本はおおらか。
そして笑顔を絶やさない。
 
 
「スクアーロ……ごめんな…?」
 
申し訳なさそうに謝る山本。
だがスクアーロは彼の頭をわしわし撫で、笑って言った。
 
「早く終わらせて、ゆっくりするぞぉ。年越しはここに居座ってやるからなぁ!」
 
「………おうっ!!」
 
 
 
 
それから店を綺麗に掃除し、あとは大丈夫だから自分の部屋を掃除してこいと言われ、山本とスクアーロは2階へと移動した。
 
「ここはすぐ終わりそうだなぁ」
 
「ん〜……そうでもないのな」
 
そう言いながら、山本は勢い良く押し入れを開けた。
 
 
「……………………」
 
服に野球道具にアルバムに小物……見事に物が詰まっていた。
 
「な?」
 
「……確かに………って、もう少し普段から片付けとけぇ!」
 
 
 
 
まずは、この押し入れから取り掛かることにした2人。
とりあえず物を出す。
 
そして数分後には、大掃除にありがちな状況に陥っていた。
 
 
「あ、コレコレッ」
 
「こんな小せぇ頃から野球やってたのかぁ」
 
そう、アルバム鑑賞。
一旦広げてしまえばもう作業は進まない。
懐かしくてアルバムを眺めてしまうのだ。
 
それに今はスクアーロもいる。
初めて見る恋人の幼い頃の数々の写真に、大掃除の素晴らしさに気付くのであった。
 
 
 
「はかどってるか?」
 
剛が部屋を覗きに来た。
そしてアルバムを見る2人を怒鳴るのかと思えば……なんと、一緒になってアルバムを懐かしんでいた。
 
 
「これは武が5歳の時だなー」
 
「アハハッ、親父が若いのな」
 
「今だって若ぇやいっ」
 
山本親子が談笑する。
 
すると、スクアーロが気になる写真を見つけた。
 
「これは……」
 
アルバムの持ち主が写真に写っていない。
山本はその写真を見ると、写真の中の1人を指して言った。
 
「コレ、俺」
 
「………………はあ"あ"あ"ぁ!!??」
 
写真に写っているのは、7歳くらいの女の子達。
全員、女の子………の恰好をしている。
 
剛も覗き込み、「あぁコレかぁ」と懐かしがる。
 
「確か、武が小学校に入ってしばらくした時のアレだな」
 
「アレ?」
 
「男女平等…だっけか?異性の気持ちもわかろうとかいう……」
 
「………………」
 
意味がわからない。
山本もしばらく考え、「先生達が楽しそうだったのな」と言った。
まぁ、結局は理由をつけてやってみたかっただけなんだろう。
 
スクアーロは写真を凝視する。
確かに、言われてみれば彼にも見える。
というか、絶対そうとしか考えられない。
だって、自分が可愛いと思ったのだから……。
 
 
写真を見つめているスクアーロを見て、剛はからかうようにその肩に手を置いた。
 
「なんだスク坊、それ欲しいのかぃ?」
 
「あ"ぁ、欲しい」
 
即答。
意表をつかれた剛はしばらく固まるが、やがて苦笑した。
 
「ホント、スク坊には敵わねぇや」
 
当の山本はといえば、何故こんな写真を欲しがるのかわからないという顔をしていたのであった。
 
 
 
 
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