献上小説置き場3

□やっぱり一緒にいたい
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夕方。
やっと大体が完成した。
あとは夕飯に、適当に蕎麦でも茹でて食べればいい。
 
ベルはまだ帰って来ていなかった。
いつ帰るとは言っていなかったから、もしかしたら年越しまでに間に合わないかもしれない。
もちろん獄寺は、ベルと一緒に年を越したいとか思っていても口には出さない。
だから早く帰って来いとも言わなかった……というか言えなかった。
 
けれど、2人前の蕎麦を茹でている自分は何だろう。
やはりこれも願望からくる行動なのか……。
 
 
「……………」
 
蕎麦を2人前用意し、席につく。
だがどうしたものか、箸をつける気になれない。
わかってる、こんな事をしてもアイツが帰って来る訳じゃないって事くらい。
それでも………
 
「っ……………」
 
涙が、流れた。
 
自分でも驚いた。
こんな事で泣くような自分じゃない。
任務で会えないなんてよくある事。
それでも、学校もなく年末に1人きりというのは、妙に寂しい気持ちにさせた。
 
以前は孤独なんて訳なかった。
城を飛び出してからずっと、1人で生きてきたのだから。
最近、この部屋がうるさい事に慣れてしまったせいかもしれない。
「隼人」と呼ばれる事に、その声がある事に慣れてしまったのかもしれない。
 
 
「ベル……」
 
呟いた瞬間。
 
 
 
 
「隼人っ!!!!」
 
バンッとドアが開き、同時にそう呼ばれた。
 
 
「………………ベル……」
 
息を切らした同居人が、いた。
 
 
 
 
「しししっ、ギリギリセーフってやつ?」
 
そう言いながらベルは靴を脱いで入ってくる。
それから獄寺の顔を見て、「あ、やっぱアウトだ」と言った。
 
「何が……」
 
「だって、隼人泣かせちゃった。王子失格じゃん」
 
「なっ……」
 
獄寺は慌てて服の袖で目をこする。
泣いていた事がバレたのが恥ずかしかった。
 
慌てて話題をそらす。
 
「はっ…早かった、な……」
 
「うん、頑張ったからね」
 
そしてベルは獄寺に抱きつく。
いつもはすぐに突き返す獄寺だが、今日は何故かそれが出来ない。
このぬくもりを離したくない……そう思ってしまった。
 
思わずベルの背中にぎゅう〜っと腕を回す。
ベルはそれに気づくが、あえて言わない。
言ったらきっと、意地っ張りな彼は離れてしまうから。
 
 
「ただいま、隼人」
 
「……おかえり」
 
「遅くなってごめんね?」
 
「どうせまた無理したんだろ。王子の癖に息切れしながら来やがって」
 
「だって早く隼人に会いたかったしっ」
 
ベルはしししっと笑い、さらに強く強く抱きしめる。
痛いくらいが、今の獄寺にはちょうど良かった。
 
 
 
「そうだ、蕎麦」
 
「蕎麦?」
 
「年越し蕎麦」
 
そう言って獄寺はテーブルを指す。
そこには2人前の夕食が用意されていた。
 
「隼人、まさか待っててくれた…?」
 
「いっいや、これは……まだ腹が減ってなかったというか、これから食べようと思っていたというか……」
 
あせあせと言い訳をする獄寺に、ベルはまたもや抱きつきたい衝動に駆られる。
さすがにここは我慢するが。
 
 
 
「いっただっきまーす」
 
そして蕎麦を食べ始めた。
 
「ん〜っ、ウマい!やっぱり隼人の日本食はいいね!」
 
「蕎麦くらい誰が作ったって変わんねぇよ。それより……」
 
「ん?」
 
「……いや?明日…な」
 
元旦、ベルが獄寺の手作りおせち料理に感激したのは言うまでもない。
 
 
 
会えないからこそ、その大切さを実感出来る。
 
それでも、出来るなら毎日でも会いたい。
 
 
結局獄寺は、2日のツナとの初詣を断り、家でゆっくり同居人と過ごすのであった。
 
 
 
 
 
 
→後書き
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