献上小説置き場3
□未来の約束
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日も傾き始めた、寒い寒い雪の日。
ありえない恰好で町内を走り回っている少年がいた。
「うおーっ!!極限走るぞー!!」
言わずもがな、笹川了平である。
Tシャツ1枚で首にタオルを巻き、汗を流しながら全力疾走している。
誰もが、傘の下にコートにマフラー、手袋をしていても凍えている中、目を疑いたくなるような光景だ。
だが、了平にはこの寒さすら、極限精神で乗り越えてしまえるのだ。
「はぁ……はぁ……っ」
いい汗をかいたところで、ちょうど家に着いた。
「今日はこのくらいか」
夕方のロードワークが終わったところで、次の楽しみはなんと言っても夕飯だ。
極限に食べ、極限に鍛え、極限に寝る。
それが了平の1日だった。
勉強については触れてはいけない。
家に入ると、玄関からいい匂いが漂ってきた。
途端にお腹が鳴る。
早く食べたくて、急いでシャワーを浴びてリビングに駆け込んだ。
「あら、おかえりなさい」
「…………………」
おかえりなさいと言ったのは母ではない。
妹の京子でもない。
なんとそこにいたのは……
「どうしたの?了ちゃん」
「なっ………な………っ!?」
ピンクのフリフリエプロンをつけてオタマを持ったオカマ……もとい、ルッスーリアだった。
以前激しい戦いを繰り広げた2人だが、その直後すぐに筋トレ仲間になり、今ではなんと恋人同士である。
聞けば、ルッスーリアが笹川家に来た時には笹川夫婦は泊まりがけの町内旅行に出かけていて、京子しかいなかったそうだ。
そういえば、両親が近々何処かへ泊まりに行くとか言っていた気がする……と、了平は思い出す。
「では京子は!?」
ここにはいない。
「あぁ、妹ちゃんならお友達の家にお泊まりに行ったわよ」
「何!?」
そういえば言っていたような……。
そこで了平のお腹が盛大に鳴る。
ルッスーリアは微笑むと、すぐに料理をよそり始めた。
その様子をじっと見ながら、了平は無意識にボソッと呟いた。
「嫁が出来たらこんな感じなのか……?」
ルッスーリアは一瞬固まり、声に出してしまっていた事に気付いた了平も固まる。
その直後、熱い抱擁が待っていた。
「っ〜〜了ちゃぁぁん!!まさかそこまで考えていてくれてたなんて…!私嬉しいわぁ〜っ!」
「なっ…もしもの話だっ!おっ…おまえの事では…ない……かも、しれ…ん……?」
段々疑問系になる。
了平には、ルッスーリアとの未来以外に浮かぶものがなかった。
「私の事じゃない?ホントに?」
「う………」
互いに、互いしか見えない事などわかっている。
ルッスーリアはほんのり赤くなった了平の顔を覗き込んだ。
「ねぇ?了ちゃん?」
「っ……おっ、俺は……」
――…クゥー…ギュルルルル……
「「…………………」」
先程より大きく、了平のお腹が鳴った。
ルッスーリアは苦笑すると、「まずは夕飯ね」と言い、自分の分の夕飯も用意して向かいの椅子に座るのだった。