文章。
□BANDMAN7・序章
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イツモフタリデ。
ライブハウスの狭い楽屋。スタンドに立掛けられたギターには、古女房と呼ばれて久しい友が刻んだ言葉が並んでいる。エレキギター、それもオールドのレスポール。ロックギタリストなら誰もが憧れ、しかし誰もが手に入れられる訳ではない、半伝説化した楽器。
ギターの横に立った、浅黒く引き締まった横顔の男は、八割方埋まった客席を映すモニターを硬質な眼差しで見据えている。
CD等のメディア販売が主流という時代にあって、男はいまだにライブにこだわり、生演奏のみを武器として、ステージに立っていた。
バンドブームは終局に向けて動き出していると聞く。
おそらく、このライブが最後のライブになるだろう。そしてこのバンドも、もうすぐ終わろうとしている。
結成当初こそ苦労したものの、その後は順調に客足も伸び、メジャーデビュー一歩手前まで行った。たが、そこで男はデビューを拒んだ。その為、他のメンバーとの間で軋轢が生じ、ベースとボーカルがバンドからの脱退を申し出た。
モニターの向こうの客は、依然八割。スタート時間まであと少し有るが、増える気配は無かった。
「シチロージ」