文章。

□名は体を、体は名を?
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閨では、男の口は軽くなる。
普段から無口なこの男でも、それは同じだった。

こちらの他愛ない話にうなづいて、考えて、意見を述べる。
今なら、何でも答えてくれそうだ。

ヘイハチは、思い切って聞いてみた。

「そういえば、キュウゾウ殿は家名をお持ちですか?」

自分には「林田」という家名がある。
家自体は絶賛没落中ではあるが、曾祖父が賜り、自分まで続いた家名だ。自分の子……は無理だろうが、兄弟たちの子が、孫が繋いで行くだろう「家名」。

「キュウゾウ」としか言わないこの男には、はたして家名があるのか。それはどんな家名なのか。

一度気になると、聞かずには居られない。
言いたくなければ言わないだろうし、取り敢えず聞いてみた。

隣りに寝そべった男が、ダルそうに視線を向ける。

「……ない」

返事は簡潔だった。

「そうですか〜……貴方ほどの腕前があれば、すぐに家名を賜れたでしょうに……」

戦で手柄を立てたサムライには、恩賞として禄と家名が与えられる。
既に家名がある場合は禄のみだが、禄が増えるという事は、家の繁栄を意味する。

戦に於いては無敵でも、出世の為の根回しなど、絶対無理そうだ。

一人で納得していると、ふいに男が呟いた。

「賜りかけた……事はある」

驚いて、男の顔を見る。
頭蓋の中から記憶を探しているのか、男の赤い目は、遠くを見ているようだった。

「賜りかけたって事は……拒否したって事ですか?」

「拒否……というか……」

キュウゾウは、訥々と語り始めた。


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