文章。
□銭湯情景〜セントウ・シーン〜
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春。
昼下がりの銭湯で、
二人は運命の再開を果した……
銭湯情景
〜セントウ・シーン〜
バスタオルで髪と体を一通り拭いた後、ハンドタオルを髪に乗せてがしがしと動かす。
髪の水分があらかた取れた所で、下着ーー少し大きめのトランクスを手に取る。
(あ〜、大分よれよれしてきましたね〜)
トランクスの生地はくたびれ、ウエストゴムは少し延びていた。
(大丈夫。まだイケます)
決意も新たにトランクスを履こうとした時、ちょうど指一本入る程度の穴が開いている事に気付いた。
(これは繕わなきゃダメですねぇ〜)
苦笑しながらも穴の開いたトランクスに足を通し、ズボンのポケットから百円玉を取り出して握り締める。
(さて、お楽しみと参りますか〜)
ロッカーに鍵を掛け、右手には百円玉を握り締め、左手で頭上のタオルを動かしつつ番台に向う。
(今日の気分は……白、ですかね〜)
湯上りの牛乳は、一日おきの楽しみだ。
(風呂付きの家に引っ越し出来たら……)
毎日湯上りの牛乳が飲めるのに。しかし、今の財力では到底無理だ。
(仕事……見つけなきゃ)
知らず知らず溜め息を着く。視線も下向きに下がり、猫背気味を通り越した前傾姿勢で歩く。
どんっ
前傾姿勢で、しかも頭から被ったタオルに視界を遮られ、誰かにぶつかった。そして同時に
ちゃりーん……
右手から、幸せがこぼれる音がした。