文章。
□BANDMAN7・序章
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男はドラムスティックを握る古女房の名を読んだ。
呼びかけられた声の低さから、古女房は端麗な横顔を引き締めた。残る二人のメンバーにも、声をかける。
「今日が最後だ。これ以上、客も入らんだろう」
「解散……、ですか」
二人の声は淡々としていた。何度、こんなやりとりをしただろう。
「そうだ」
男は、ギターを掴むとゆっくりとストラップを付けた。
初めて手にした時からボディーに傷はあったが、ライブを重ねるごとにさらに増え、ネックやヘッドにも塗装のはがれが生じていた。
男は再びモニターに視線を映し、ギターを握り締めた。
古女房が、ライブハウスのスタッフに声をかける。
「SEスタートして下さい。照明も打ち合わせどおりで。宜しくお願いします」
ステージからSEが流れ始める。80年代のプログレッシブ・ロックの名曲だが、客のほとんどは知らないだろう。
「まいります」
古女房がステージへの扉を開けた。後ろに立った男にも、観客の熱気が伝わってきた。
男と古女房とベースとボーカルは、最後のステージへと突撃して行った――。
続。