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□久々に、呼び出されたら。
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突然 現れて、ムチを振り回しながら、
「綾里真宵! 今すぐ綾里千尋を霊媒しなさい!」
なんて言うものだから、真宵は怯えて言われるがままに霊媒を行った。
全く、困った子よね、真宵も。もう少し強い心を持ってくれないかしら。まぁ困った子なのは、脅した方にも言えるのだけれど。
ともかく、そんな訳で今、私は妹の体を借りてここにいるのだけど……………。









2月某日 某所 某時刻

「…………で、どうすればいいのかしら?」
「……あなたもやっぱり女の子ね……。」
「なっ!?」
「ムチは没収よ。真宵の体なんだから。」
私はそう言って、彼女、狩魔冥の手からムチを取った。
私達ふたりがいるのは、某所のキッチン。
この検事が何故 私に会いたがっていたのかは、真宵に降りてから すぐに解った。それは、狩魔検事の最初の一言…………。





「……チョコレートよ。」
彼女はまた言った。
そう、これが私への第一声。
「検事さん?」
「何かしら。」
「私はあなたがチョコレートの作り方を教えて欲しい、と言ったから ここにいるのだけれど。………………何か、言うことはないのかしら?」
「…う……うぅ……。」
狩魔検事はたじろいで、けれど すぐに頭を下げて、
「…………よ、ろしく……お願い、します。」
そう言った。
「はい、こちらこそ。」
私は笑いながら そんな狩魔検事を見つめた。










「……それはそうと、何でわざわざ私に?」
「…………………………………………あなたなら、知ってると思ったからよ。」
狩魔検事はそう言って、チョコレートを刻む。
「…………もうひとつ、あるんじゃない?」
私も同じようにチョコレートを刻みながら 言った。
「…なるほどくんでしょ。」
「ッ!!?」


さくっ。


狩魔検事が面白いほどに動揺して、包丁で指先を切った。
「いっ………!」
「あらあら、大丈夫?」
私は懸命に笑いをこらえながら、絆創膏を傷に貼ってあげた。
本当に、なんて分かりやすい子。
「こういうことには注意しないと。」
「……原因を作ったのはあなたよ………。」
狩魔検事がもっともなことを言う。
「あら、そう?」
私はそんなことを言ってはぐらかす。










「………作れ、たら。」
チョコレートの湯煎をしながら 狩魔検事がぽつりと言う。
「もし、ちゃんと作れたら……あなたに渡す、つもりだったの……。」
「私に? それはまたどうしてかしら?」
「…………………事務所にでも、置いてきてもらおうと……思ったの。」
狩魔検事は俯きながら 話した。
「……もしくは、あなたに渡してもらう、とか………それでもよかったわ。」
「自分で渡せばいいじゃないの。」
私が言うと、狩魔検事は顔を上げ、心底驚いた表情をした。
「何 言ってるの?」
「自分で渡せば、て。」
「できるわけないじゃない。」
「どうして?」
「どうして……って………。」
「なるほどくん、本命チョコはおろか 義理チョコすらも貰えない可能性があるのよ。 同情じゃないけど、可哀想じゃない?」
「……あなたの妹は?」
「綾里は余計なことにお金は使わないわ。 それに、バレンタインなんて 絶対知らないもの。」
「…………。」
「それにね、なるほどくんはあなたを決して嫌ってなんかいないもの。 あなたからチョコを貰って、迷惑がる訳がないわ。」
「………私、と、成歩堂は……敵、で……。」
「可哀想ななるほどくん。好きな子から チョコも貰えないで。」
「………………。」
「あなた自身が 渡してあげなさい。 でないと、わざわざ私を呼び出した意味が無くなってしまうじゃない。」
狩魔検事は、しばらく俯いたまま、黙っていた。
けれど、小さな声で、
「……わかった……わ…………。」
そう言ったのを、私は聞き逃さなかった。




















2月14日 某時刻 成歩堂法律事務所



バンッ!


「成歩堂龍一ッ!!」
「うわっ!? 冥ちゃん!? び、びっくりした………。」
ドアが勢いよく開いたため、成歩堂は持っていた何冊もの本を床に盛大に散らかした。
恐らく、捜査資料か何かなのだろう。
「どうしたの、急に……。」
「用事があって来たの。悪いかしら。」
「いや、そういうことじゃなくて………。」
「と言っても、渡すものがあっただけよ。 ……ここに置いておくから。 私はもう行くわ。あなたと違って 暇じゃないから。」
「え? ちょ、ちょっと待っ……。」


パタン。


(いきなりやって来て、ほんの数十秒で帰る人なんて 聞いたことないぞ………。)
そんなことを考えながら、成歩堂は本を拾い、デスクに置いた。
「ん?」
今 置いた本の横に、小さな包装された箱。
「冥ちゃんが置いていったものか。」
成歩堂は呟きながら その包装紙を取り、箱を開いた。
「…………………え?」
今日が2月何日で、そして何の日なのか、成歩堂が気付くのは、この2秒後のことである。










「ふふ……なるほどくんたら、あんなに嬉しそうな顔してる。」
窓の外から、弟子を見つめる千尋は、一人呟きながら 笑う。
そして、先ほど事務所から出てきた彼女の後ろ姿に目を移し、
「頑張ってね、『冥ちゃん』。」
そう言って、また笑うのだった。

END.





〔あとがきという名の言い訳〕
何だこれ。 話まとまらなすぎじゃないですか。
ナルメイは難しいですね
里緒は真宵は好きじゃありませんが 千尋さんは好きなので 登場させてみました。失敗しました。
……こ、ここまでありがとうございました……。




 

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