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□冷たい夜風が吹く場所で。
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廃墟があった。


倒れた石柱や、窓が壊れた建物がある。


そんな場所に、夜、二人の人間がいた。










「なぁ、ネズミ。」
「んー?」
ネズミと呼ばれた人間は、そこらに転がっていた石――恐らく、周りにある石柱の破片――を、手で弄びながら返事をした。
「……………………あぁ、やっぱり、何でもない。」
「はぁ? おい、イヌカシ。」
「何でもないっつってんだよ。」
イヌカシと呼ばれた方は、そう言って ネズミから顔を背けた。
ネズミは 肩をすくめて言う。
「おいおい、呼んでおいて何でもないだ? 俺の美声で返事をしてやったのに? 返事の分の代金は 払ってもらうぜ?」
「はぁ? めちゃくちゃだろ。」
「でもまぁ、まけとくよ。お前と俺の仲だしな、そうだなー、さっき言いかけた事 言ってもらうってのは どうだ? 安いもんだろ?」
「……………。」
「……………もしくは………………クラッカー。」
「……わかったよ、言えばいいんだろ、言えば。」
イヌカシは ため息をついて言った。





「……………神って、いると思うか?」
「……………は??」
「ほら、だから 言うのやめたんだ。」
イヌカシは また ため息をつき、石柱にもたれかかった。
「……神、ね。 お前もそんな事 言い出すとは。紫苑に読み聞かせでも してもらったのか?」
「別に。 ただ、そう思っただけだ。 もし いるとしたら、何で 人間なんか作ったんだろう、ってな。」
「……………。」
「……………もし神がいるとして、それが人間を作ったとして。神が、運命まで 操ってるとして。何でおれたちは、神に愛されなかった? 何でおれたちは、こんな運命を辿ってる?」
イヌカシは、自分の手を見つめながら、呟くように言った。
「何故 人間は、科学だとか、機械だとかの力を手に入れた? ……それさえ……それさえ無ければ、あんな忌々しい都市も 無かったはずなんだ。」
イヌカシは そう言って、夜空の中で 光り輝く聖都市を見つめた。





「…………あぁ、くだらない。自分で言ってて、そう思うよ。」
「お前、神を恨んでたりするのか?」
「……………いたとしたら、の話だぜ? いると思っちゃいないさ。それに、恨んで何になる? 今の状況が変わったりするか?しないだろ。」
「……あぁ、そうだな。」
ネズミは けど、と言って続ける。
「俺は、もし神がいるとして、感謝したい事がひとつだけあるぜ?」
「?」
「なぁ……何だと、思う?」
ネズミはそう言いながら イヌカシに歩み寄った。
「知るかよ。」
「………それはな、『出逢い』さ。」
「ん……? あぁ、紫苑か。」
「違う。」
「は?」
ネズミはふふっと笑い、屈んで、
「!?」
イヌカシが逃げないように腕を掴みながら、その唇に自分のそれを重ねた。イヌカシは突然の事態に固まっていた。





すぐに唇を離し、ネズミが言う。
「……お前と、さ。」
「…………な、な、なに、し……!?」
「何って、キスだろ?」
「そ、そんな事、わ、分かってるっ!! なんで、おれ、にっ……!!」
「さっきの言葉、聞いてたろ? それで理解しろよ。」
「ね、ネズミっ!!」





ネズミの笑い声と、イヌカシの動揺の声が、夜の廃墟に響いた。

END.



〔あとがきという名の言い訳〕
シリアス調にしたかったのに何だコレ。
しかも ネズミってもっとこう……冷たい感じありますよね!?
はぁ……自分の文才の無さ悲しい……。
ここまで ありがとうございました。




 

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