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□Dear Sir...See you soon.
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「──静かね……。」
今はもう誰もいなくなってしまったオフィス。鍵がかかっていたおかげで、他の部屋のようには荒れてはいないけれど。
「──少しくらい、机片付けていきなさいよ。」
クリスの机の上だけは荒れまくりで、ジルはため息をついた。





外はゾンビだらけ、おまけにバズーカを持った正体不明の化け物もいる。このオフィスも、訪れるのは恐らく最後になるだろう。警察署は──というより、ラクーンシティは──もうだめだ。長居していたら、このオフィスもゾンビが襲撃しかねない。
(──けど。)
やはりジルにとって、ここは落ち着く場所なのだ。クリスが騒いで、ウェスカーが呆れ顔でそれを見て、みんな笑っていて──それが今は、不気味なまでに静かだけれど。
(今はもう──みんないない。)
「──戻っては、こない……あの日々は。」
あんなに楽しかった日々は。ウェスカーは敵、仲間はばらばらになって、今はクリスも、ジルの隣にはいない。
「どこで、間違ったの。どこから、狂い始めたの。」
つぶやいても、誰も答えてくれない。ここにはジル以外、誰もいない。誰も──。










「ねぇ、クリス。私はどうすればいいの。」
物が溢れたデスクに左手をついて、ここにはいないクリスに問い掛ける。
「戦わなきゃ、いけないの。誰がそんなこと決めたの。誰が私を選んだの。誰が何をして、こんなことになったの、ねぇ クリス──。」
右手に持った銃が、妙に重く感じた。
「クリス。私は怖い。」
ウェスカーと戦うこと。ウイルスにより失われていく命を目の前にしながら、何も出来ない自分のこと。仲間が──クリスが、命を落としてしまうこと。
「──怖いなんて言ったら、あなたは笑うわよね、クリス。」
それでもジルの心には、恐怖がまとわりついている。クリスの名をつぶやかずにはいられない。そうでないと、クリスが離れてしまう気がして。
「怖い………怖い。」
自分の声が震えているのが分かる。それと同時に、体の震えも止まらなくなって、デスクについた左手をぎゅっと握りしめた。
「いつまでこんなことが続くの。」
『俺達が終わらせるんだ』
頭の中に、クリスの言葉が蘇る。
「私は──あなたほど強くないわ、クリス。あなたは、それをわかってない。」
本当は──ひとりで生きていく勇気さえない。
「だから──あなたに行ってほしくなかったのに。」
それなのに、クリスを止めることも出来なかった。なんて弱い──。









「クリ、ス──。」
震える肩を、左手で強く掴む。それでも震えは、止まらなくて。右手に持った銃を見つめて、それを震えながら、こめかみに当てた。
「──大丈夫。だってあなたは、ひとりで生きていける。だから、私がいなくても大丈夫……。」
そうつぶやきながら目を閉じて、ゆっくりと引き金を引いた。


かきん。


「───?」
不発、だった。
「……ぁ……。」
ジルは全身の力が抜けて、膝をついた。
「まだ死ぬなってこと、クリス?」
それとも──自分は死ねない運命にあるのか。
「──どちらにしても、今は生きてなくちゃ、ならないのね。」
天井を仰いで、そう言った。
──そうだ、自分は生きなくては。生きて、
「生きて、あなたと会わなきゃね、クリス。」
ゆっくりと立ち上がって、オフィスを目に焼き付ける。いつの間にか、震えは止まっていた。


ピーピー


オフィスの隅にある無線が鳴った。
通信ボタンを押すと、ノイズと共に、若い男の声が聞こえてきた。
「……くそ……囲まれてる!………こちらカルロス……部隊は………」
プツンと無線が途絶え、辺りがまた静かになった。
「無事かしら……助けなくちゃ。」
生きなくてはならない。ひとりでもいい、より多くの生存者を見つけて、ここを脱出しなければ。







ハンドガンの弾を入れ、装填する。
「クリス。近い内に、会いましょう。」
懐かしいオフィスに背を向け、ジルはそうつぶやいた。
外から、あの化け物の声が聞こえた。
「──何度だって来なさい。私は絶対に生き抜いてみせる。」
ふっと笑って、ジルは外へ飛び出した。

END.





[あとがきという名の言い訳]
クリジル?これ。いや、気弱なジルを書きたかったんですがね。気弱というより鬱に近い(汗)
ここまでありがとうございました。





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