1

□出会ったのは……
1ページ/1ページ





それは、シノン自身、初めて見る花だった。
野原に、ぽつんと大木があって。

その花は、ひらひらと淡い桃色の花びらを散らせながら、咲いていた。



「………す…げェな。」
軍の張り詰めた空気が気に入らなくて、拠点から少し離れていた。
敵は今まで、軍の行く手を阻むように出現してきたのだから、軍の進行方向から逸れれば、敵は来ないはずだ、という考えで。



そうしたら、この大木に出会った。
「……………。」
その花の美しさに圧倒されながら、シノンはその木に近づいた。
「………見た事ねぇ花、だな………」
「………サクラ……ていうん……ですよ……」
「!」



聞き慣れた声に振り向くと、そこには魔道士の少女が静かに佇んでいた。
「イレース……?何でここに?」
「………シノンさん…が…出ていくのが……見えたので……」
イレースはそう言うと、シノンの隣に並んだ。



「………とても珍しい……花なんだそうです……この大陸の……ごく一部にしか……咲かない、と……ララベルさん達が……言っていました……」
「………お前も、初めて見たのか?」
イレースは小さく頷いて、サクラをじっと見つめていた。
シノンも、サクラの幻想的な姿をぼぅっと見ていた。



「………サクラには……不思議な力があって……サクラのそばには……もう一つの世界の、入り口が…あるらしい……です……。」
「………もう一つの…?」
シノンはサクラを見ながらイレースの言葉を聞いていた。
「……そう……別の、世界の……」
クスリ、とイレースの笑う声が聞こえた。





「『死後の世界』の入り口。」
「――あ?」
視界の端に、何か黒いものが見えた。
「!?」


ヒュッ


反射的にそれを避ける。完全には避け切れなくて、左腕に痛みが走った。
「……イレー…ス……?……お前……何して…?」
シノンの左腕から、血が細く流れた。
クスクスと笑うイレースの手には、短剣が握られていた。





イレースは笑いながら、なおもシノンを攻撃した。
動きが素早かったので、シノンはただそれを避けた。
「……おいッ!イレースッ!!」
呼び掛けても、彼女は一向に攻撃を止めない。
「―――くそッ!!」
シノンは仕方なく動きを止め、


ヒュッ。


トスッ。


イレースが突き出して来た短剣を、左手で受け止めた。
「………ッあ……!!」
痛みに呻きながら手の甲から短剣を引き抜き、地面に落とす。
怪我をしている左腕を押さえながら、イレースを睨みつけた。
「どういうつもりだ!イレース!!」





イレースはそれでもなお笑い続けていた。
「……哀しいですか?」
「――?」
「あなたが愛している『私』に、命を狙われるのは、哀しいですか?」
「何言って……!?」
「けれど……今のままでも……充分哀しいでしょう……?『私』と別れてしまう……その時が、近づいている……」
「…ッ!? お前……何なん……」





「哀しいというのなら、連れていってあげる、と言ってるんですよ。」
また笑いながら、『それ』はシノンに近づいて、頬に触れようとした。
「……俺に触んなッ!!」
シノンはその手を振り払って言った。
「……お前は……お前…はッ……イレースなんかじゃねぇ………ッ!!」
『イレース』はシノンをじっと見つめた。
「…お前…誰なんだ…?」





「――さぁ……?」
『イレース』の髪が、風に揺れた。
「『もう一つの世界』の案内役………そう、死神と名乗っておきますね。」
「!」
突如強い風が吹いて、『イレース』の含み笑いが聞こえた。
「……さよなら、シノンさん。また会いましょう。」





顔を上げると、彼女はもうどこにもいなかった。
「…………!」
シノンの足元の地面で 鈍く光っている短剣が、彼女がいたという ただ一つの証拠だった。










「………確かにサクラには……不思議な力があるらしい……です……」
拠点にて。
シノンの腕の手当をしながら、本物のイレースが言った。
シノンの話を、イレースは真剣に聞いてくれた。
「………今…世界は正の気に満ちているから……サクラも力が増幅されて……別世界の入り口が……開いたのかも……しれません…。」
「………そ、か……」





シノンはポケットを探って短剣を取り出した。
「……拾ってきたん……ですか……?」
「あぁ………後で古物屋に売りさばいてやる。」
イレースはくすくすと笑いながら言う。
「私も……見てみたかったです……サクラの花……。」
「――俺はもう二度と見たくねぇ……」
うんざりするように言うシノンを見て、イレースはまた笑う。





そんな恋人を見て、やはりこの笑顔はどんな偽物も真似できないだろう、とシノンは思うのだった。
END



〔あとがきという名の言い訳〕
……ていうかもう……シリアスって何ですか!?
わかりにくいったらありゃしないこの駄文……(泣)
修行してまいります(^-^;
ここまで ありがとうございましたー!





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ