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□I like...
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ちょっと前に、好きだったこと。

何もせずに、ごろごろすること。

晴れた日に、木の下でうとうとすること。

──まぁ要するに、怠けること。

今もそれは好きだけど。

今、それよりも好きなもの──。

例えば、うたた寝していると、時折聞こえてくる二瑚の音だとか。

美味い茶だとか。形の良いおにぎりだとか。

例えば、仕事の合間の少しだけの昼休みとか。

少し難しいけれど、兵法の話だとか、歴史の話だとか。

ちょっとの間に、好きなものはたくさん増えた。

その原因は──。









「あんのクソセーガぁぁ!!何なのあの底なしの嫌み!!」
そんな言葉と共に、今日も拳やら肘鉄やらが丸められた布団に叩き込まれる。
無論、それは布団の本来の用途とはかけ離れた行為である。良い子は是非とも真似しないで頂きたい。

それから布団さん、ご愁傷様です。



「……」
そんな布団を尻目に、蘇芳はぱらぱらと本を捲っていた。あーあー、またやってるよ、と心の声が言葉に出ちゃってたりする。
「なんっで毎回毎回ここに来てネチネチ嫌み言ってくのよ!あームカつく!脳天叩き割ってやりたいわ!むしろ股間蹴り飛ばしてやりたいっ!」
最後のはさすがに酷いだろ、と男として蘇芳は思う。思うだけ。言葉にはとても出来ない。
今の彼女に何を言っても無駄。
「くぬっ!くぬ!くぬぅぅ!!」
掛け声と共に叩き出される拳を見るに、今日の嫌みは一際苛立ったらしい。そんな訳で、今日の布団さんの傷三割増し。



「……はぁーっ、スッキリした!布団さん、ごめんなさいね、明日もよろしく」
そう言いながら布団を片付け、秀麗は蘇芳の向かいに座った。
「さぁタンタン、休憩しましょ」
「んー」
彼女が言う休憩が、仕事の休憩なのかそれとも先程の"あれ"の休憩なのか定かではない。
それでも蘇芳は頷き、茶を二人分注いだ。
「っあー、やっぱりこういう時のお茶って最高よねーっ!」
「…そうだなー」
彼女の言う"こういう時"がどういう時なのか、蘇芳には勿論定かではない。
しかし頷いておくのが一番である。弁当を美味しそうに食べる秀麗は先程とは打って変わっていつもの秀麗だから。



「………」
「タンタン、どうしたの?私の顔何かついてる?」
「……ん、いや何でも」
やっぱ十人並みの顔だよなーと思っていたとはまさか言えず、蘇芳は自分の握り飯をもぐもぐと食べた。
「変なタンタン」
「悪かったな」
「別に悪いとか言ってないわよ?あ、お茶おかわり」
「さり気に命令すんな!」
「あら、ごめんなさい」
全くよー、と言いながらも蘇芳はちゃんと茶を淹れてくれた。



「今日もまだまだ仕事あるわね……タンタン、午後はまず牢城よ」
「了解」
そう返しながら、蘇芳はふっと笑った。休憩の時にも仕事を忘れない、それがあまりにも秀麗らしくて。
「……どうしたのタンタン。やっぱり何か変なものでも食べた?」
「いや別に。……そうだ、今日仕事終わったら二瑚弾いてくんね?」
「?ええいいわよ」
蘇芳はその答えを聞くと、今度はにこっと笑った。
「じゃ頑張る」
「が、頑張るって……きゃー!タンタンが病気っ!熱!?」
「…違うって……もおいいや」





好きなものは、たくさん増えた。楽しいことも、たくさん増えた。

それは

──頑張る理由をくれる、彼女がきっと、一番の原因。



END.




 

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