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□無題
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三題→空き缶、好き、リップクリーム




からん。

風に吹かれた空き缶が、星彩の前を横切って転がっていく。

特に気になったわけではないが、何となくそれを目で追いかけていた。

(あ)

それを拾い上げたのは、見るからに人の良さそうな若者。星彩の知っている顔だ。

「─ちゃんと拾うのね。あなたらしいわ」
「え?あ…星彩殿。いえ、落ちてたら気になるもので」

そう言って若者─幸村は照れ笑いを浮かべた。

「よくボランティアでゴミ拾いしているものね」

並んで歩きながら、星彩は言った。

「あぁ…兼続殿の頼みを断れなくて」
「いいことね。好きよ、そういう活動。関平もよくしている」
「………」
「どうしたの」

黙り込んだ幸村を見ると、幸村はハッと我に返った。

「あ、申し訳ありません!」
「何かあった?」
「いえ、その…星彩殿が口紅をつけているのは珍しいなと」

言われて、星彩はあぁ、と頷いて唇に指をやる。

「色付きのリップクリームよ。いつも買っているものが売ってなくて仕方なく」
「そうなんですか」

それは、淡いオレンジ色のものだった。色が控え目なそれは、星彩に相応しいと、幸村は思う。

「いいですね。私はそれ、好きです」

幸村はそう言い、にこっと笑う。

「そう?ありがとう」

─色付きリップクリームも、たまにはいいか。

そんなことを考えながら、星彩は幸村と、真夏の住宅街を歩いていった。







「─あぁちくしょう、何であれで何も進展ねぇんだよ!?」
「むぅ……『空き缶を拾う心優しい彼にドキッ☆大作戦!』は失敗だな……」
「その作戦がそもそも容易すぎるのではないか?」

物陰から観察をしていた三人─孫市、兼続、三成は揃って溜め息をついた。

「デートらしいデートも普通に十何回してんのになぁ……ありゃお互い"一緒にお出かけ"くらいに考えてんな……」
「ならば次は『君に胸キュン☆〜体育館倉庫編〜』はどうだ!?」
「あいつら二人ならすぐ叩き破って出てくるぞ…」

幸村と星彩の仲に進展があるまで、三人の地道な努力は続く……。




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