1
□無題
1ページ/2ページ
三題→空き缶、好き、リップクリーム
からん。
風に吹かれた空き缶が、星彩の前を横切って転がっていく。
特に気になったわけではないが、何となくそれを目で追いかけていた。
(あ)
それを拾い上げたのは、見るからに人の良さそうな若者。星彩の知っている顔だ。
「─ちゃんと拾うのね。あなたらしいわ」
「え?あ…星彩殿。いえ、落ちてたら気になるもので」
そう言って若者─幸村は照れ笑いを浮かべた。
「よくボランティアでゴミ拾いしているものね」
並んで歩きながら、星彩は言った。
「あぁ…兼続殿の頼みを断れなくて」
「いいことね。好きよ、そういう活動。関平もよくしている」
「………」
「どうしたの」
黙り込んだ幸村を見ると、幸村はハッと我に返った。
「あ、申し訳ありません!」
「何かあった?」
「いえ、その…星彩殿が口紅をつけているのは珍しいなと」
言われて、星彩はあぁ、と頷いて唇に指をやる。
「色付きのリップクリームよ。いつも買っているものが売ってなくて仕方なく」
「そうなんですか」
それは、淡いオレンジ色のものだった。色が控え目なそれは、星彩に相応しいと、幸村は思う。
「いいですね。私はそれ、好きです」
幸村はそう言い、にこっと笑う。
「そう?ありがとう」
─色付きリップクリームも、たまにはいいか。
そんなことを考えながら、星彩は幸村と、真夏の住宅街を歩いていった。
「─あぁちくしょう、何であれで何も進展ねぇんだよ!?」
「むぅ……『空き缶を拾う心優しい彼にドキッ☆大作戦!』は失敗だな……」
「その作戦がそもそも容易すぎるのではないか?」
物陰から観察をしていた三人─孫市、兼続、三成は揃って溜め息をついた。
「デートらしいデートも普通に十何回してんのになぁ……ありゃお互い"一緒にお出かけ"くらいに考えてんな……」
「ならば次は『君に胸キュン☆〜体育館倉庫編〜』はどうだ!?」
「あいつら二人ならすぐ叩き破って出てくるぞ…」
幸村と星彩の仲に進展があるまで、三人の地道な努力は続く……。