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□照れ隠し
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第一印象は、お世辞にも良いとはいえなかった。

遊園地のコーヒーカップの下敷きになったあたしを見て、呆れた挙げ句、笑ったのだ(自分でもちょっと間抜けだと思ったけど)。

──なのに、いつからかな。



「おい、さっさと歩け。ここもそろそろやばい。次はコーヒーカップじゃすまんぞ」

思考の中心の人に、過去から現在へ連れ戻される。

「わかってるよ! ていうかいつまでそのネタ引っ張る気!?」

この人のことを考えていたことを指摘されたような気持ちになり、思わず文句を言う。
でも正直しつこいよ。そのネタ。

「んー…俺が飽きるまで?」

銜え煙草で独特の笑みを浮かべる。

「さっさと飽きてよ!」

カチンときて、思わず蹴とばしてやろうと足を振り上げた途端、バランスを崩した。

「へ? わ、きゃ!?」

痛みを恐れ、目をつぶった。
が、痛みは訪れない。
代わりに煙草の香りがすぐ近くで、した。

「…? ッ!!?」
「お前な…転びすぎ。これで三回目だぞ…」

陣内さん、の顔、が目の前にあった。
真っ赤になる顔を自覚しながら慌てて離れる。

「あ、ありがと」
「礼はいいから足元見ろ」
はーっと思い切りつかれたため息にう、と声が漏れた。



いつからかな。



ぶっきらぼうに言って歩き出す陣内さんの後ろ姿を追いかける。

少し、ほんの少しだけど。
耳が赤い。


いつから陣内さんの照れ隠しに気づいたのかな。

まだ出会って一日で、いつからも何も無いかもしれないけれど。
気づけたことが、すごく嬉しい。

だから私も照れ隠しに言う。

「見なくても平気!」

そしてちょっとだけ素直になって勝気なこの男を負かすとどめを言う。

「こーじさんが助けてくれるもん! だから私はこーじさん見てる」
「…!?」

ふふんと笑うと思わず煙草を落とした陣内さん。
だけど、すぐにいつもの調子を戻した。

「下らんこと言ってないでさっさと歩け!」

ふいと背を向けてスタスタと歩いていってしまった。
そんなことしたって無駄なのに。

「照れなくていいのにー」
「……」

いつからかな。
陣内さんの印象が“優しくて可愛い人”になったのは。
さすがにあたしも恥ずかしくて言えないけど。
もう陣内さんの照れ隠しに騙されることはない。











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