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□対極、であるはずの
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初めて見たときは見とれたのだ、本当に。
戦場において周りに浸食されることなく、己を貫く彼女に。
──だが今はどうか。
見とれるどころか、あまりにも己とは異なる彼女に圧倒されてばかりだ。
主に対しての態度は忍としてどうなのか。
そして己に対しての態度も敵としてどうなのか。
戦場で会えば実に楽しそうに仕掛けてくる。
だがそれ以外ではやれ団子を買えだのやれ簪を買えだの、そうかと思えば隣で寝息を立てていたりする。
寝首を掻かれるとは考えないのか。あるいは腕に自信があるということだろうか。
今もまた己にたかった団子を頬張り、当然のようにこちらの皿に手を伸ばしている。
──別に食べたいわけではないが…思わずため息が漏れた。
「あ、やっぱ食べたかった? 終わっちゃったよん」
にゃはっと特有の笑みを向けてくる。
「もう……いいだろう」
目の前の狐だか猫だか迷う女に考えても無駄だと悟り、店から出た。
足の向くまま歩いていたら高台に出た。
こんなにも広かったかと思いながら景色を眺めていた。
「似て……いるな」
「何と何が??」
どこか楽しそうな声がすぐ傍から聞こえてきた。
「……来たのか」
「しっつれ〜い!! 来たっていうかずっと一緒に歩いてたっての〜」
ぷうと頬を膨らませる女に瞠目した。
いた、のか…まるで気づかなかった。忍失格かもしれない。
「ま、あたしだってアンタがいても気づかなかったことあるけどね〜」
……これは皮肉なのだろうか。確かによく居たの?とこの女に言われるが。
「で? 何と何が似てんの?」
眉をしかめて目を逸らした。
──言えるわけがない。
広々としたこの景色がいろんな表情と言動を見せる目の前の女と重なった、などと。
「無視? 冷たいにゃ〜」
言葉の割に実に気持ちよさそうに風に当たっている。
と、町を見下ろしながら口を開いた。
「…あのさ、居ても気づかないって嘘だよ。気づいても居心地いいからなんも言わないだけ」
女が何を言わんとしているのかよく分からない。
黙っているとやはりにゃはと笑い、言葉を続けた。
「あたしたちって似てるじゃん?」
…………そうだろうか。
なんだろう、すごく複雑だ。
「同じもの見て落ち着けたりするし…半蔵の傍は一番落ち着いて眠れるもん」
ストンとしゃがみこんでて、足元の草をいじる女はしみじみと言った。
静かな声音に、不意になるほど、そうかと納得がいった。
いつだか己も気づかぬ内に彼女の隣で眠りこんでいた事がある。それも一度や二度ではない(その度に油断し過ぎだと己を叱咤したのだが)。
それはこの女が己に声をかけてくるのと、同じ理由なのかもしれない。
いつの間にかこんなにも落ち着ける居場所ができていたのだ。
──しかしどうにも似ているというのだけは分からなかった。
なにもかもが真逆ではないだろうか。
己はこの女のような言動は絶対に取らない。
「落ち着くというだけで…似てはいな、」
「ううん、似てる」
遮られた。
少なからず傷ついた己に気づいているのかいないのか、そのまま女は話す。
「だって初めて会ったときに思ったもん。自分そのものっていうか、片割れに会えたみたいな」
ふふっと笑った女はぱっと立ち上がると、じ、と下から覗き込んできた。
反射的に、
「滅」
と口をついて出た。
女はそれに対して照れないの、と笑い声を上げた。
そういえば、今のように、難解と言われる己の言葉を彼女は容易く理解する。
女の言う通り、似た者同士だからかもしれない。
「対極過ぎて似ているのかもしれんな」
「だ〜から似てるんだって!」
「最初にお前に見惚れた理由が今わかった」
「ふふーんそうでしょ……え!?」
対極のようで、限りなく近い彼女だからこそ。
目を引いたのかもしれない、と思う。
女が言うように、本能的に何かを察していたのに違いない。
「ねぇちょっと半蔵! 今のどういう意味〜!?」
横で騒ぐ女とは対照的に、空はひたすら爽やかに晴れわたっていた。
終