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□先攻後攻!
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「そ〜いちろ〜くん!」

仕事をさぼって町をぶらついていたら、死んだ目をした男に声をかけられた。

「旦那、俺は総悟ですぜィ。何度言わせるんでさァ」
「まぁ、細かいことはいいから。銀さんね、そろそろ見ててイライラしてきたからね、お節介に来たんだよ。感謝しろ、コノヤロー」

よく分からないが感謝はしたくねーなと思いつつ一応返答する。

「なんだってんです?」
「ん〜、ま、アレだよ。うちの神楽はお子様だからガキの表現じゃ伝わらないよって話。青臭いのもいいけどさぁ〜」

瞬時に何を言われているのか理解した。
んなことはわざわざ言われなくても分かってる、と俺は眉をひそめた。

相手がお子様で自分もまたどうしようもないガキで、だから進展しなくて。
今の関係も嫌いじゃないから、それを建前にしたりして。

「うちの子はバカだが黙ってりゃそれなりに見えるからな。誰かに取られちゃっても知らないよ〜?」

自分は人を苛める天才だがこの男は人をいらつかせる天才ではなかろうか。
しかも好き勝手言うとさっさといなくなりやがって。

ため息をつくと空を見上げる。
──あの少女の瞳を思わせる色。

「…わかってまさァ」



あの天パのせいでせっかくの休日気分が台無しだ(あくまで気分。さぼりだし)。

いつもの公園で昼寝、とも考えたが今は神楽に会いたくない。
仕方ないので寝る場を探して歩きだす。

しばらく歩くと土手に出た。ここなら寝られそうだと思うと同時に、自分の気持ちとは理不尽なまでに裏腹な美しい景色に少し腹が立った。
気を取り直して愛用のアイマスクをつけて寝転がる。

うとうとし始めた頃、人の足音がした。
聞き覚えのある、足音だ。なんでここに、と思ったが、

「オイ、サド寝てるのカ? 起きるアル! オイ!──なんだよマジで寝てるのかヨ」

起きてはいる。だがあの白髪にごちゃごちゃ言われて顔を合わせる余裕がない。やっぱり自分はガキだと思う。

そんなことを考えていたら神楽が隣に腰を下ろす気配がした。

「なぁ、なんで今日公園に来なかったアル?…けど昼寝できそうな場所探したらすぐ見つかったヨ。やっぱりお前は単純アル」

単純なのはお互い様だ。
こいつだって万事屋以外は公園と駄菓子屋のどちらかにしかいない。

そんなことを考えていたらふわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。

「ね、そーご……好きヨ?」

囁くような声がしたと思ったら。
寝ている俺の額に、柔らかく、温かいものが、触れた。

今、何が起こったのだろう、体が硬直して動かない(どのみち狸寝入りしているのだから動けないが)。

「じゃ、またナ」

明るい声がして、ぱたぱたと走り去る足音。
それが完全に聞こえなくなってから飛び起きた。
アイマスクを外し熱をおびた顔を覆う。
だがすぐに体を支えていられなくなって、再び仰向けになった。

「……さっきのはずるいだろィ。不意打ちってやつですかィ…」

ガキだ子供だというのはどうやら自分だけだったようだ。
くそっ、と前髪をかきむしった。

「──俺もそろそろ大人ってェやつになってみるかァ」

呟いて目を開けると、目の前に広がる青空。
先ほど理不尽だと感じた景色が今は輝いて見える。

何もかもが彼女の瞳と同じくらい澄みわたっていた。










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