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□転がる、転がる
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今井は小石を蹴って遊んでいた。
コツンと爪先で蹴とばす。小石の転がる方へ歩き、追いつくとまた、蹴る。

「あ、今井さん」

前方で今井の存在に気づいた火向は、近づいてくるのを待ち、声を掛けようとした。
ら、素通りされた。

「…っと、待ったァッ!!」

火向は思わず叫びながら、今井の腕を掴んだ。今井は驚いた様子で顔を上げた。

「なんだいたのか。驚かすな」
「さっきからいましたよ…無視したわけじゃないですよね…?」
「あ、スマン。そういうわけではない。ちょっと小石を蹴っていてな」
「小石と一緒に俺の存在まで蹴とばさないで下さいよ…」
「別に上手くないぞ」

ヒドイ、と火向は思った。まあ彼が今井の言葉にダメージを受ける事は割合よくあることだったりする。

「小石蹴ってた、てあのひたすら石追っかける?」
「ああ。ふと思いついてな──結構蹴ってたなぁ」

後ろを振り返って言う今井に、童心に帰るってヤツか?と火向は思った。
しかし、知り合いの姿に気づかぬほど熱中するとは…この人は、時折実に可愛らしい面を見せる。

「俺も参加していいすか?」

二人で小石を交互に蹴りながら歩く。

「そういや、これってどうなったら終わりなんすかね? 子供の時は考えなかったけど」
「さあな。石が無くなるまでじゃないか? 夢中になっている時に限って排水溝に落ちたりしたな」
「あ〜確かに! 俺も経験あります」

不意に、今井が蹴った小石が砕け、蹴られ過ぎた小石は砂と化した。

立ち止まった今井は、ふ、とため息を吐いた。空を見上げる。
どうしたのだろうと同じように立ち止まった火向の前で、今井の髪が風に靡いた。

「──人の人生も同じようなものだ。楽しい時なんて一瞬で消えてしまうんだ。…私の存在だって道端の小石と一緒だ」

どこか切なげな表情で今井は先ほどまで小石であった砂を見下した。
火向は知らず今井に見入った。もしかしてこの人は、ずっとそれを考えながら蹴っていたのだろうか。

く、と息を飲んだ火向は今井の前に回り込むと口を開いた。
ん?と見返す今井に向かって満面の笑みで両手を広げる。

「今井さんはそこらへんの石ころなんかじゃないっすよ?…宝石です!」

眩しいほどの笑顔で恥ずかしげもなく語る火向に、今井は呆れの表情を見せた。

「キザだな。あほらしい」
「な、本気ですよ!?」

必死の形相の火向に、くすりと笑った今井は、火向に一歩近づき、下から覗きこんだ。

「──だが悪くない。ありがとう」

今日始めて見せた笑みはとても綺麗で、そんな今井はまぎれもなく宝石だ、と火向は真っ赤になった。だがしかし言えばさすがに怒られるだろうなと頭の隅では思いながら。











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