1

□水、きらめいて
1ページ/4ページ




一行はある島に上陸していた。

ルフィ、ナミ、サンジは買い出しに街へ繰り出している。
チョッパーは前回の島で手に入った珍しい医学書を読みたいという理由から、船番をかってでていた。

そしてロビンは散歩に出ていった。

ゾロも始めは船で寝ていたが、どうせなら近くに見える森で森林浴がてら昼寝しようと思い立ち、森へと足をのばしていた。ナミが聞いていたら止めただろう(迷うから)。



「へェ、結構深い森だな。空気がうめェ、よく眠れそうだ」

同じ寝るなら一番良い場所で寝たい、と森の奥へと進んでいくゾロ。
しばらく歩くと(もはや彼一人では戻れまい)水音が聞こえてきた。川か泉でもあるのだろうか。
ちょうどいい喉を潤そうと、音源へと方向を変えた。

木々が開けた場所に、ゾロの予想通り泉があった。
同時にゾロの予想外の光景も。

──ロビン、が水浴びをしていた。

硬直したゾロだったが、ロビンが服を着て水浴びをしていた事にやや安堵する。

「──あら、剣士さん。どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ! 何やってんだ、お前は」
「何って水浴び。見て分からない?」
「それは分かんだよ! こんな誰が来るかも分かんねェ場所でするなっつってんだ!」
「あら、こんな奥まで来るのはアナタくらいよ。それに、ほら。誰か来たときの場合に服を着てるでしょう?」

いや、あまり意味が無い。
濡れているせいでシャツは身体にはりつき、ロビンの見事な曲線美を浮かびあがらせている。
むしろこっちの方が問題だ。いっそ裸でいてくれたら目をそらすこともできたろうに。
ゾロは理性とは裏腹にロビンに釘付けになる己を叱咤した。

「……とにかくもうあがれ」
「どうして? 気持ちいいわよ、剣士さんもどう?」
「い・い・か・ら・あ・が・れ!」

ゾロは内心の動揺を悟られまいと必死になる。そんなゾロの心情を知ってか知らずか、ロビンは小首を傾げて何か考えていた。
と、ゾロに向かって両手を差し出してきた。

「自分であがれねェのかよ…ったくほらよ」

ゾロがロビンの両手を取って引き上げようとすると、不意にロビンがいたずらっぽい笑みを浮かべた。
思わず見とれたゾロは油断してしまい、ロビンの次の行動に反応できなかった。

ロビンが思い切りゾロの腕を引っ張ったのだ。

気を取られていたのと、前に重心が傾いていたのとで、ゾロは頭から泉に落ちた。

「…っ何しやがんだてめェッ!!」
「ふ、あはは!」

抗議の叫びをあげたが、ロビンは実に楽しそうに笑っている。いつもの大人びた微笑みではなく思い切り声を出して笑うロビンは、存外幼い。
愛しさを感じ、毒気を抜かれたゾロだがそれとこれは話が別だ。ロビンにもう一度問う。

「なにしやがんだ?」

ようやく笑いをおさめたロビンはゾロを覗き込んだ。

「気持ちいいでしょう?」

そのいとけない仕草に衝動が沸き、強引にロビンを引き寄せ口を塞ぐ。
いきなりの行動にロビンは目を見開いたが、すぐにゾロのキスに応えた。
静かな泉の中、世界には今自分達しか存在しないのではという錯覚を覚え、同時にその錯覚にひどく満足する。

「…ふ、…ぁ…」
「ロ…ビン」

互いに求め合い、互いを認識する。絡ませ合い、探り合い、夢中で互いを味わった。
しばらくして、二人は離れた。荒い息を紡ぐ二人の唇を銀糸が繋ぐ。

「─…強引ね、剣士さんは」

ロビンは息を整えてくすくすと笑った。
今日はよく笑うな、とゾロは穏やかな気持ちでそれを見つめていた。

「…人を水に落とした奴に言われたくねぇな」
「それもそうね」

ロビンはまた楽しそうに笑んだ。


「──結局、なんだって水浴びなんかしてたんだ?」

水面をパシャパシャと叩いて遊んでいるロビンに尋ねる。

「この場所があんまり綺麗だったから、独り占めしたくなったの…アナタが来たけど」
「そいつぁ悪かったな」

ロビンは水面を叩くのをやめてゾロを見た。

「ううん。アナタと二人占めできて良かったわ──この場所は私と剣士さんの秘密ね」
「…そうだな」

昼寝はできなかったが、ロビンの様々な顔を見られたし、共有の秘密もできた。
たまにはこういうのもいいかもしれない、とゾロはまた水遊びを始めた恋人を見てぼんやりと思った。












次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ